「百年文庫025 雪」

親子の「絆」とは

「百年文庫025 雪」ポプラ社

「母 加能作次郎」
母が死んでから半年余りになる。
此頃になって、
頻りにその母の面影が
懐しく偲ばれる。
母は私には第二の母だった。
母が継母だということを
知ったのは、私が
六つか七つ位の頃のことだった。
私はどんなに母を苦しめ、
父を悩まし…。

ポプラ社百年文庫第25巻。
三篇に共通するテーマは「雪」です。
加能作次郎「母」は、その印象を
作者が雪に重ねています。
耕治人「東北の女」は、
物語のはじめと終わりが雪の季節です。
特に終末場面の能代は吹雪です。
由起しげ子「女中っ子」の佳局は
冬の雪深い山形が舞台となっています。

「東北の女 耕治人」
能代に住む義姉の艶子が
娘の幸子を連れて来るという。
幸子をもらいたいという約束を
確かにしていた。
だが、自分の住むアパートは
落ちぶれた住まい。
妻と「自分」が食べていくだけで
精一杯。
幸子を引き取るのは、
今は難しい…。

しかし、それ以上に共通しているのは
「親子関係」です。
「母」では、
作者にとっての母は継母です。
実母の記憶がないにもかかわらず、
継子であることにこだわっていた
作者の心が
氷解する過程が綴られています。
「東北の女」は、
「自分」の養子となる十四歳の少女との
一年が描かれています。
少しずつ、しかし
確かに紡がれていく親子関係です。
「女中っ子」では、
主人公になつく勝見は、奉公先の
奥様の実子であるにもかかわらず、
関係がぎくしゃくしています。

「女中っ子 由起しげ子」
加治木家へ女中を志願して
山形から上京してきた初。
加治木家には
三人の子どもがいた。
真ん中の勝見は、
学校では問題児となっていた。
だが勝見は初になつく。
勝見は家族に内緒で
捨て犬を飼っている、
その秘密を初も共有する…。

こうしてみると、親子の「絆」とは、
この世の中で最も太い「綱」のように
思われがちなのですが、
本当はか細い「糸」のような
ものなのかも知れません。
「縄」を編むかのごとく、
お互いの努力によって
培われていくものなのでしょう。

もう一つ共通していること。
三篇とも作者は今では
ほとんど忘れ去られた
存在であることです。
三者とも、出版物は
そのほとんどが絶版中です。
「雪」のように
はかなく消えさせてしまうには
惜しい作家と作品たちです。

(2021.3.3)

Lorri LangによるPixabayからの画像

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