パズルを組み上げるように紡ぎ出される物語
「天国の本屋 うつしいろのゆめ」
(松久淳+田中渉)新潮文庫
暴漢の刃に胸を貫かれた
イズミだったが、
気がつくと無傷だった。
その場にいた謎の老人に
促されるまま、
彼女はある屋敷に
ヘルパーとして雇い入れられる。
しかしその目的は、
屋敷の老主人に
立ち退きをさせるという
ものだった…。
「天国の本屋」の第二作目です。
天国の本屋・ヘブンズブックサービスの
店長兼天国の保護士・ヤマキが
スカウトする次なる「朗読者」は
29歳の女性・イズミ。
幼い頃に父親が家出し行方不明。
三流詐欺師で成功経験なし。
6度目の相手との旅行途中、
ヤマキに結婚詐欺を暴露され、
さらに運悪くハイジャック犯に刺され、
天国へと招かれる。
彼女はいったい
どんな天国体験をするのか?
本作品の味わいどころ①
イズミは自分の過去と
どう向き合うのか?
物語のいたるところでイズミの過去
―染め物職人であった父親と
生き別れた思い出の断片が
挿入されます。
イズミが自分の過去とどう向き合い、
どう決着をつけるかが
本作品の味わいどころとなっています。
父親が別の女性と
親しげにしている場面を、
幼いイズミは目撃しています。
しかしその女性は影が薄く、
背には翼が生えていたのです。
真相はいったい?
本作品の味わいどころ②
長一郎はいったい誰を待っているのか?
立ち退きを拒んでいる
長一郎が待っているのは誰なのか。
長一郎には亡くなった妻がいること、
長一郎はかつて
染め物職人であったこと、
一人息子を最近亡くしていること等が
少しずつ明らかにされていきます。
最後に明かされるその真相は、
読み手に爽やかな感動を与えます。
本作品の味わいどころ③
イズミがヘルパーとして
雇われた理由は?
これまで21人の女性が
一週間以内に辞めているほどの
頑固な老人・長一郎。
ヤマキはなぜこの老人のヘルパーとして
イズミを選んだのか。
イズミの朗読は
長一郎に何をもたらすのか。
ヤマキが画策している
長一郎の屋敷の立ち退き問題は
どう進展するのか。
すべては感動的な結末に向けて
収束していきます。
パズルを組み上げるように、
一つ一つの謎が解き明かされ、
物語が出来上がっていく構成は、
読み応えがあるとともに、
最後の感動を
一層大きなものにしてくれます。
ファンタジー小説としては
超一級の作品です。
高校生に、
そして心の癒やしを求めている
大人のあなたにお薦めしたい一冊です。
(2021.3.12)