「悪魔人形」(江戸川乱歩)

本作品で打ち出された新機軸

「悪魔人形」(江戸川乱歩)ポプラ社

「魔法人形」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第20巻」)
 光文社文庫

小学校五年生のルミをさらった
怪老人の手がかりを
掴んだ小林少年。
彼はアジトとみられる洋館に
単独で潜入する。
鎧櫃の中に身を隠した
彼だったが、不覚にも
その中に閉じ込められてしまう。
やがてその隙間から
火の手が見えて…。

前作「魔人ゴング」では、
失態続きの二十面相、
そろそろ乱歩のネタが
尽きたかのように見えましたが、
本作品は新機軸がいくつか
打ち出されています。

本作品に見られる新機軸①
化け物に化けない二十面相

これまでは「青銅の魔人」「透明怪人」
「宇宙怪人」、あるいは
「巨大カブトムシ」(「鉄塔王国の恐怖」)、
「鉄の人魚」(「海底の魔術師」)等々、
奇想天外な化け物に扮するのが
お約束でした。
今回はただの「西洋悪魔みたいなやつ」。
コスプレ程度で終わっています。
そのかわり、その周囲に登場する
「人形」たちが今回の目玉となるのです。

「走る子ども人形」
「半分生きていていて
半分死んでいるお姉さんの人形」
「夜になると動き出すユリ子人形」
「人造人間」
「ロボットワニ」
「ロボットゴリラ」
「ロボットワシ」…。
これだけ登場するのは
「海底の魔術師」以来です。

本作品に見られる新機軸②
謎解きは省略しスリル重視

その一方で、謎が解き明かされるのは
一部だけです。
「子ども人形」と「お姉さん人形」の秘密は
解き明かされることなく終わります。
「人造人間」も
手品のようなトリックがあるのか
それとも高性能マシンを開発したのか
謎のまま終わります。
やむを得ません。
明智は他の事件で出張中で、
さらに後半部では
小林少年までお出かけ中。
二人が不在の中での
事件発生なのですから。

本作品に見られる新機軸③
少女探偵マユミの冒険と活躍

代わって今回主役に躍り出たのが
少女探偵マユミです。
前作「魔人ゴング」で
デビューを果たしたマユミは、
本作では明智の弟子として活躍します。
敵のアジトを見つけ出し、
盗まれた王冠を奪い返したまでは
良かったのですが、
二十面相に見つかり、
いつものパターンで監禁されたあげく
あの手この手で
怖い目を見させられるのです
(それにしても前作では執拗に
マユミを付け狙った二十面相ですが、
今回はまったく
遺恨が感じられません)。

実は新機軸を打ち出したというよりも、
掲載雑誌が「少女クラブ」であったため、
女の子を意識した設定と
せざるを得なかった側面があります。
昭和33年に連載された本作品を読んだ
当時の小学生の女の子たちは、
今頃どんなおばあちゃんに
なっているのでしょうか。

(2021.3.30)

Ventus17によるPixabayからの画像

【青空文庫】
「魔法人形」(江戸川乱歩)

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