僅かに不純物が混じっていた方が
「幻の混合酒」(O.ヘンリー/芹澤恵訳)
(「1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編」)
光文社古典新訳文庫
ケニーリーの店の
奥の部屋を借りている
ライリーとマッカーク。
二人はかつて偶然にも創り上げた
極上の混合酒を、
今ようやく
再現することができたのだ。
店に勤める真面目で有能な青年
コン・ラントリーが、
その混合酒を一口飲むと…。
その酒を飲んだコン青年が大胆になり、
意中の女性キャサリンを
口説き落とすという結末です。
以前読んだ際には、
どこが面白いのかさっぱり
わからなかった記憶があります。
作品の持つ深い味わいに気付いたのは
最近です。
このコン青年は、粗筋に記したとおり、
「真面目で有能な青年」なのです。
本文には
「きれい好きで、頭の回転が速く、
礼儀をわきまえていて、
几帳面で、信頼が置けて、
責任感の強い」と
書かれてありますので、
かなりな「好青年」なのでしょう。
さらには酒を一滴も飲まない
真面目さです。
そんな彼の欠点は
女性の前では気が小さくなること。
特に憧れのキャサリンの前では
何も話せなくなっていたのです。
そしてこの「混合酒」は、
ただの「極上の酒」ではありません。
「呑むと、勇気がむくむくと
湧いてきて意気に燃える」
「熱くて図太い気持ちになる」
酒なのです。
味が良いだけでなく、
最高の気分に浸れるのですから、
酒としてはやはり極上です。
どんなに試行錯誤しても
その味を再現できなかった二人は、
コン青年の一言で、
その鍵を思い出すのです。
二人から酒を勧められたコン青年は、
「呑まないんです。
水よりも強いものは駄目なんですよ。」
そして
「水不足ほど困ることはない。」
二人はかつてその混合酒を作ったとき、
水を加えていたことを
思い出したのです。
おそらく、「水=コン青年」であり、
「酒=不真面目」なのでしょう。
不真面目な酒の集合に
僅かの水を加えることによって、
極上の酒ができる。
同様に真面目一徹のコン青年が
ごく少量の酒を口にすることによって、
素敵な男性として
振る舞うことができる。
過ぎたるは猶及ばざるが如し。
何事も極端だといけない。
僅かに不純物が混じっていた方が、
味わい深いものになるのです。
ところで、
コン青年のように立派な人間ではなく、
不純物の量は僅かどころか
大量に混じっていて、
飲む酒の量も一口どころか、
毎日ビール大瓶2本も呑んでいる
私の人柄などは、
まったく苦い味わいしか
感じられないでしょう。
せめてO.ヘンリーの作品でも
せっせと味わいましょうか。
(2021.4.3)