「活版印刷三日月堂 海からの手紙」(ほしおさなえ)

進化する三日月堂と弓子

「活版印刷三日月堂 海からの手紙」
(ほしおさなえ)ポプラ文庫

「わたし」が手に入れた
一冊の豆本。
それはかつて父が出入りしていた
印刷屋「三日月堂」の
手によるものだった。
三日月堂には
父が出版する予定だった本の
組版がまだあるという。
最後の原稿が入稿次第
印刷する予定だったのだと…。

活版印刷所を舞台とした
ベストセラー作品の第二弾です。
前作の読みどころとして、
「活版印刷によって形を与えられる
依頼主の願い」
「一歩引いた主人公・弓子の魅力」
「ところどころに現れる
活版印刷の蘊蓄」を挙げましたが、
その魅力は
本作にも受け継がれています。
その上で、
さらに読みどころが増しています。

本作品の読みどころ①
文字・文章と生き方

前作同様、4つの連作短編集であり、
それぞれの語り手が
主人公となっています。
4人の主人公はすべて、
縁あって三日月堂と関わり、
「文字」もしくは「文章」と
真摯に向き合うことになります。
彼らは一度立ち止まって
じっくり自分と向き合い、
そこから自分の人生の
転機をつかむのです。

第一話の「わたし」は、
上手にできない自分の朗読と
向き合う中で、
自分の在り方を発見していきます。
第二話の「ぼく」は、
生後すぐ亡くなった
姉の名刺を作ることで、
大人へと一つ成長していきます。
第三話の「わたし」は、
自分の版画を豆本に刷る作業を通して、
傷ついた心を癒やすとともに
もう一度作品を
創り始めるようになります。
第四話の「わたし」は、
亡くなって数年経つ父親の
原稿と出会い、
自分の半生を振り返ることになります。

本作品の読みどころ②
つながっていく物語

前作でもそうでしたが、
各話で製作した印刷物を手にした人物が
次のエピソードの主人公となって、
新たに三日月堂を訪れていきます。
一話ずつしっかりと
つながっているのです。

それに加えて本作では、
四話それぞれの中でも
人と人とのつながりを軸に
物語が進行します。
第一話では「わたし」と朗読の指導者、
そしてその祖母が、
一篇の童話を通して
思いを共有していきます。
第二話では「ぼく」と
生後すぐに亡くなった姉、
そして「ぼく」と両親の
絆が見直されます。
第三話では「わたし」と
その再生を手伝った版画家夫妻が、
銅版画への情熱で結びつけられます。
第四話は「わたし」と息子、
そして父の三代が、
父の原稿によって
心を通わせていくのです。

本作品の読みどころ③
進化する三日月堂と弓子

前作で三日月堂が請け負ったのは、
レターセット、
ショップカーッドとコースター、栞、
結婚式の招待状といったものでした。
本作では
第一話の「朗読会のプログラム」、
第二話の「名刺」、
ここまでは前作同様
比較的簡単な印刷物ですが、
第三話の豆本製作を経て
第四話では一冊の本の印刷へと
進化していきます。
これまで動かなかった大きな印刷機が
とうとう動き出すのか?
次作への期待が膨らみます。

二作目あたりでそろそろ
おいとまするつもりでいましたが、
しっかりはまってしまいました。
第三作「庭のアルバム」
早急に入手します。

(2021.4.12)

PixalineによるPixabayからの画像

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