「こがね丸」(巌谷小波)

全ての娯楽要素を盛り込んだ一大エンターテインメント

「こがね丸」(巌谷小波)
(「日本児童文学名作集(上)」)
 岩波文庫

「日本児童文学名作集(上)」岩波文庫

「こがね丸」(巌谷小波)
(「日本児童文学大系1巌谷小波集」)
 ほるぷ出版

「日本児童文学大系1巌谷小波集」ほるぷ出版

父を虎の金眸大王に食い殺され、
母もその衝撃で倒れ、
犬の黄金丸は孤児となる。
しかし黄金丸は
牛の文角に育てられ、
立派に成長する。
黄金丸は
諸国修行の旅で出会った
猟犬の鷲郎、
そして文角とともに
金眸大王を討つ決意をし…。

日本児童文学史をさかのぼると
ここにたどりつきます。
巌谷小波の書いた本作品は
創作児童文学の中では
最も早い時期に出版されたものです
(なんと明治二十四年!)。
筋書きは単純な仇討ち物語ですが、
本作品は
三つの大きな読みどころを持ちます。

本作品の読みどころ①
「努力」「友情」「勝利」の三拍子揃い踏み

仇討ちのために黄金丸は
必死に修行を積み重ねます。
これは「努力」です。
黄金丸と鷲郎との出会いの場面では、
お互い死力を尽くして引き分け、
その力量を認め合い、
兄弟の契りを結びます。
これは「友情」です。
最後は仲間とともに
仇討ちの悲願を達成します。
これは「勝利」です。
「努力」「友情」「勝利」。
少年漫画の三大要素を
もれなく取り込んだ、
まさに一大動物冒険活劇といえる
内容なのです。

本作品の読みどころ②
昔話の主人公と因縁を持つ登場動物

黄金丸の先祖は人間の大将とともに
鬼ヶ島の征伐で軍功をあげています。
黄金丸の治療を行った老兎は、
若かりし時、
仲良しの婆さんを殺した狸を
海に沈めたその人(獣)です。
金眸軍団の参謀猿の叔父は、
かつて蟹を苦しめました。
そうです。
「桃太郎」「かちかち山」「猿蟹合戦」の
関係者(獣)です。
日本昔話を
壮大なスケールで結びつける、
まさに一大動物昔物語サーガといえる
内容なのです。

本作品の読みどころ③
一目瞭然の勧善懲悪

悪の金眸は軍団をつくり、
狡猾屈強な手下を従えています。
善の黄金丸の三人衆は、
窮地に陥るものの
大逆転勝利を収めます。
最後に正義は必ず勝つ。
まさに一大仇討勧善懲悪時代劇といえる
内容なのです。

そうです。
本作品は当時考え得る全ての娯楽要素を
ふんだんに盛り込んだ、
一大エンターテインメントなのです。
仇討ちを正義と定義していること、
残酷シーンが多いこと、
正義側も策略を使っていること、
時代錯誤な勧善懲悪であることなど、
おそらくは当時であっても
突っ込みどころ満載であるにも
かかわらず、
掲載した雑誌「少年世界」は
現代の「少年ジャンプ」に匹敵する
大成功を収めます。
当時の少年少女は
エンターテインメントに
飢えていたのでしょう。

現代に引き寄せてしまうと
噴飯物ですが、
その時代に立ち返って没入すると、
かなり面白く読み味わえます。
ここから日本の児童文学は
始まったのです。

※「下」も合わせてどうぞ。

※文章は文語体であり、
 かなり読みにくいものと
 なっています。
 試しに冒頭の一文を。
「むかし或る深山の奥に、
 一匹の虎住みけり。
 幾星霜をや経たりけん、
 躯尋常の犢よりも大く、
 眼は百錬の鏡を欺き、
 鬚は一束の針に似て、
 一度吼ゆれば声山谷を轟かして、
 梢の鳥も落ちなんばかり。」

 どうです、読めそうですか?

※挿絵も面白いです。
 動物がなぜか全て
 擬人化されています。

※数年前に岩波文庫の
 「日本児童文学名作集」で出会い、
 さらにこの作者の他の作品を
 読んでみたいと思い、
 「日本児童文学大系」全30巻に
 たどり着きました。
 中古30冊セットで3000円
 (送料4000円!)。
 少しずつ読んでいます。

※巌谷小波はいかがですか。
 こんな本も出版されています。

(2021.4.21)

Michael KleinsasserによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「こがね丸」(巌谷小波)

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