「犠牲打」を放った「成果」は何なのか?
「犠牲打」(O.ヘンリー/芹澤恵訳)
(「1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編」)
光文社古典新訳文庫
「ハースストーン・マガジン」の
編集方針は、
社内外の一般人に閲読させて
その可否を
決定するというものだった。
若い作家スレイトンは
自作を採用させるため、
その閲読者となる予定の
速記者パフキンに接近し、
ついには結婚するが…。
スレイトンが結婚したパフキンは
どんな女性か?
スレイトンと同じ家に下宿していて、
「いささか古風で、
身体つきは痩せていて、
面やつれしていて、
神経質でお高くとまっていて、
ロマンチストで、
未婚のまま婚期を逃しかけている女」と、
散々な書かれようです。
自分の作品を世に出すために
そのような女性と結婚するスレイトン。
表題の「犠牲打」(A Sacrifice Hit)は
もちろん野球の犠牲バント。
わが身を犠牲にして
成果を得ることのたとえでしょう。
「マガジン」の閲読については、
作家名が伏せられた原稿が渡されます。
スレイトン夫人となった
パフキンに手渡された原稿を、
彼女は激賞します。
それを聞いたスレイトンは意気揚々と
ハースストーン社に
駆けつけるのですが、
編集長から原稿を預かった
使い走りの坊やは、
彼の原稿を間違って
守衛に渡していたのです。
彼の原稿は採用されませんでした。
では、
「犠牲打」を放った「成果」は何なのか?
「犠牲打」の「成果」①
パフキンとの結婚は間違ったものには
ならない可能性が高い
原稿を社に届けた際、
守衛は夫婦喧嘩の真っ最中でした。
守衛はこうつぶやきます。
「あれがその昔、
おれが夜も眠れないほど
想い詰めた娘なんだからね」。
恋するが故に結ばれても、
年月が経てばこのようにもなるのです。
パフキンは能力のあるOL。
そんなに間違ったものには
ならないのではないかと
思えてなりません。
「犠牲打」の「成果」②
パフキンの価値観はスレイトンに近い
パフキンが激賞した小説のタイトルは
「金ゆえの結婚
~もしくは働く女の勝利」。
「ロマンチストで」と
書かれてあるのですが、
彼女の思考や価値観は
スレイトンのそれに近いことが
うかがえます。
このことからも二人は
意外とうまくいくのではないかと
推察できるのです。
「犠牲打」の「成果」③
スレイトンの腕前は悪くはない
例の守衛の手に渡った
スレイトンの作品の表題は
「恋こそすべて」。
だからこそ守衛は
「寝ぼけたことを抜かすな!」と
たった一言の寸評を付けて
突き返したのです。
おそらく中身は
まったく読んでいないはずです。
彼の原稿は出来が悪くて
没になったのではないのです。
彼の作家としての腕前は
悪くはないことが予想されます。
すべて推量の
積み重ねでしかないのですが、
スレイトンとパフキンはそれなりに
うまくやっていくのではないかと
思えてならないのです。
どこをどう読んでも
不幸の香りのまったくしない
O.ヘンリーの作品ですから。
(2021.4.24)