面白さの秘密は細胞世界に置き換えたストーリー展開
「はたらく細胞02」(清水茜)講談社
胃の周辺に現れた細菌に
立ち向かった好酸球は、
まったく歯が立たず、
仲間の細胞から馬鹿にされる。
細菌、そして腸炎ビブリオは
白血球が駆除するが、
続いて現れた寄生虫には
打つ手がなかった。
そのとき好酸球が立ち上がり…。
(第5話 食中毒)
中学校2年生の理科の単元
「生物のからだのしくみとはたらき」の
参考図書として活用できればと考え、
購入した第1巻。
余りの面白さのため、
第2巻も買ってしまいました。
第2巻は中学校理科を完全に飛び越え、
もはや医学の世界です。
でも面白さは
さらにパワーアップしています。
その秘密は細胞世界に置き換えた
ストーリー展開にあります。
第5話では、
通常の細菌に対しては
まったく力のおよばなかった好酸球が、
寄生虫駆除にかけては
抜群の働きを示し、
仲間の細胞の信頼を勝ち得ます。
目立たないクラスメイトが
実は…、という展開は、
まるで学園ドラマを彷彿とさせ、
思わず笑みがこぼれてしまいます。
温暖化する体内世界。
水は蒸発し、乾燥化が進み、
異常現象が続いていた。
熱中症である。
だが、侵入したセレウス菌が、
危機に乗じて
世界支配をもくろんでいた。
破滅のときを待つ菌を
追跡する白血球。
彼が力尽きたそのとき…。
(第6話 熱中症)
第6話では、
熱中症になった人体の内部の様子が
実にわかりやすく描かれています。
しかし熱中症に対しては、
体内の細胞のはたらきだけでは
いかんともしがたいため、
そこに火事場泥棒的な
セレウス菌を登場させ、
筋書きを創り上げているのは見事です。
幼き日の赤血球である赤芽球は、
細菌からの避難訓練の最中に
仲間とはぐれ、
一人になってしまう。
ところがそこに
本物の緑膿菌が現れ、
赤芽球に襲いかかる。
逃げ惑う赤芽球を追う
緑膿菌の前に
立ちはだかったのは、
骨髄球だった…。
(第7話 赤芽球と骨髄球)
それぞれの幼年期の姿を描き、
現在に重ね合わせる手法は、
恋愛ドラマによくあるパターンです。
それを体内の細胞の赤血球・白血球で
再現しているのです。
これにも思わず笑ってしまいました。
ウイルス感染した細胞を駆除した
白血球・キラーT細胞・NK細胞。
共同で敵を探索するが、
NKはTと仲違いしてしまう。
それは
敵の正体を見破ったNKの、
二人を逃がすための芝居だった。
単独で敵と対峙するNK、
しかし敵の正体は…。
(第8話第9話 がん細胞)
今度は戦いにおける友情物語です。
最後は白血球とキラーT細胞だけでなく、
他の細胞たちの応援を受けながら、
NK細胞は見事がん細胞を倒します。
そして死にゆくがん細胞と
白血球のやりとりも絶妙です。
「手違いが元で、
出来損ないとして生まれて
…そのせいで
味方になるはずだった免疫細胞に
命を狙われて
…何のために生まれてきたんだ」
というがん細胞の述懐は、
悲哀さえ感じさせます。
人間そのものが主人公であれば、
これらの筋書きは
陳腐なものに過ぎません。
しかしそれを
巧みに細胞世界に置き換え、
面白く読ませることに
成功しているのです。
よくある展開が細胞世界で
絶妙に再現される面白さこそ、
本作品の醍醐味なのです。
やはり清水茜、恐るべしです。
(2021.5.4)
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