「完璧な侵略」「博士の粉砕機」(今日泊亜蘭)

気付いたときには遅かった

「完璧な侵略」「博士の粉砕機」
(今日泊亜蘭)(「最終戦争/空族館」)
 ちくま文庫

宇宙研究所に勤務している
旧友「かれ」と再会した「おれ」は、
恐ろしい話を聞かされる。
Σ星人の侵攻が静かに始まり、
地球の人類の滅亡が
近づいているというのだ。
事態の恐ろしさに震えながら
帰宅した「おれ」だったが、
妻もまた…。
「完璧な侵攻」

地球は自らが開発した
新(ネオ)ロボットに反逆され、
すでに
地上の1/2を奪われていた。
局面打開のために
グル博士が開発した
ロボット粉砕機を見学していた
警視総監一行が、
破砕されたロボットの状況の
異変に気付いたときには…。
「博士の粉砕機」

明治生まれのSF作家。今日泊亜蘭
ほとんど忘れ去られていたのですが、
2016年に刊行された本書をはじめ、
ちくま文庫から2冊、
創元SF文庫から1冊が出版され、
再評価の兆しが見え始めてきました。
SFは文学のジャンルの中でも
日持ちがせず、
賞味期間が短いのですが、
よくよく味わうと十分楽しめます。

一年前にシベリアに墜落した「円盤」。
調査隊は何も発見できなかったが、
Σ星人はすでに機体から脱出、
地球侵略を始めている。
しかもΣ星人は
水銀状の金属生命体であり、
人間の身体を着物のように纏い、
すでに多くの人間と
密かに入れ替わっている。
入れ替わった人間は瞬きをせず、
鉱物や油性物質を飲食する。
それが「かれ」から「おれ」が
聞かされた話なのです。

もちろん「話」だけで終わるはずがなく、
「おれ」は命からがら脱出するのですが、
帰宅すると妻も…という、
SFというよりはホラーの要素の強い
「完璧な侵略」です。

人間と判別不能なのは
Σ星人だけではありません。
新(ネオ)ロボットも同様です。
ロボットの反乱という古くて新しい
テーマが使われていますが、
こちらもホラーです。

壊れたロボットの表面が
死体のように冷たかった。
ロボット破砕機からは
何やら赤い液体がしみ出している。
そして骨を噛むような音が聞こえる。
そうした状況に警視総監一行は
疑問を感じるのですが、
時すでに遅しでした。

両作品に共通しているのは
「見えざる侵攻」ということでしょうか。
よもや私たちの周囲に
異星人の乗り移りやロボットの擬態が
紛れ込んでいるとは考えられませんが、
新型コロナウイルスは、
まさにこの「見えざる侵攻」に
ほかなりません。
気付いたときには遅かったということに
ならないといいのですが…、
いや、もうすでに…。

(2021.5.11)

Stefan KellerによるPixabayからの画像

【見えざる侵略を描いた眉村卓の3篇】

【今日泊亜蘭の本】

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