言葉の味わい方、楽しみ方を語りつくしている
「ぼくらの言葉塾」(ねじめ正一)
岩波新書
日本語がうまくなりたい。
美しい日本語を使いたい。
私はそういう気持ちをもっています。
私は外国人ではないのですが。
「日本語は難しい」。
日本人として生まれて
すでに半世紀を過ぎているのですが、
そう思います。
そのため折にふれて
日本語に関する本を読んでいます。
本書もそうして出会った一冊です。
本書は、文章づくりのポイントを
伝授しているように見えて、
言葉の表現のしかたよりも、
言葉の味わい方・楽しみ方に
重点を置いています。
「1時間目:発見!自分の言葉」
「2時間目:言葉の関節を外す」
「3時間目:こわして作るカゲキな言葉」
「4時間目:声で遊ぶ・朗読」
「5時間目:詩の秘密」
「6時間目:子どもの秘密」
章立てを見ただけでも楽しくなります。
学校の1日の時間割を組むようにして
構成された本書の中で、
筆者は自分の考えを
縦横無尽に語りつくしています。
「自分では自己表現したつもりでも、
言葉が自分から出てきた
言葉ではないために、
自己表現になっていない」。
冒頭から手厳しい指摘です。
しかし読み進めると、
当たり前のことを実にわかりやすく
書いているということに気付きます。
全編を貫いているのは
「言葉を大切にせよ」という
筆者の思想です。
子どもたちに「よい本」を
紹介しようとしている私にとって、
戒めとなるような一節もありました。
「常識と、理屈と、成熟。(中略)
子どもをいわゆる「いい子」に
育てたい大人は、
この三つが大好きです。
そして彼らが子どもに
読ませたいと思う本には、
たいてい、この三つのうちの
どれかが含まれています。
しかし忘れてはいけません。
常識の行き着くところは硬直です。
理屈の行き着くところは妥協です。
成熟の行き着くところは凡庸です。」
やや乱暴な論理が含まれていますが、
ここはこれから肝に銘じておかなくては
ならないと感じました。
また、作品中に
取り上げられている本や作家が、
私自身の嗜好に不思議と合致していて、
読んで嬉しい気持ちになりました。
谷川俊太郎や阪田寛夫、
まど・みちおの詩が紹介され、
湯本香樹美の「夏の庭」が引用される。
佐野洋子の絵本
「100万回生きたねこ」まで登場します。
特別な文学作品ではなく、
誰しもが読んだことのある
作品を持ち出し、
「言葉を大切にしている実例」が
丁寧に説明されているのです。
ねじめ正一氏の言葉をかみしめながら、
「また自分らしい
日本語を綴っていこう」と
決意を新たにする今日この頃です。
(2021.5.14)