すべての生徒に認められた泉水子の願いとは
「RDG6 レッドデータガール
星降る夜に願うこと」
(荻原規子)角川文庫
戦国学園祭で能力を
発現させてしまった泉水子は、
影の生徒会長・村上から
世界遺産候補として認められる。
しかし陰陽師を代表とする高柳は
それに異議を唱える。
高柳との再戦を制し、
すべての生徒に認められた
泉水子の願いとは…。
最大の山場であると考えられた、
戦国学園祭を描いた第5巻に続く
最終刊です。
まだまだ山場がありました。
これまで穏やかに進行してきた
シリーズですが、最終巻だけは
起伏の多い筋書きとなっています。
【登場人物】
鈴原泉水子
…「姫神」に時々憑依される。
その封印のため三つ編みにしている。
相楽深行
…泉水子の幼馴染みで山伏の家系。
宗田真響
…泉水子のルームメイト。才色兼備。
宗田三姉弟の一番上。
宗田真夏
…人より馬に関心を持つ。
宗田三姉弟の一番下。
宗田真澄
…宗田三姉弟の真ん中。6歳で死亡。
真響・真夏に呼び戻されると実体化。
相楽雪政
…深行の父。
鳳城学園に非常勤講師として勤務。
如月・ジーン・仄香
…現生徒会長。
高柳一条
…陰陽師の家系。
学園祭で泉水子に敗れる。
村上穂高
…影の生徒会長。「判定者」の一人。
和宮
…神霊の一種。深行と同化。
鈴原紫子
…泉水子の母。現在の姫神憑き。
中山瑞穂
…泉水子の診察を行う研究者。
姫神
…泉水子に憑依する神霊。
RDG6のさらなる山場①
懲りない高柳との再戦
前作は泉水子の術でこともあろうに
犬に姿を変えられてしまった高柳。
これで完全にへこんだかと
思われましたが、なんともしぶとい。
泉水子が大きな力を発揮したのは
自分の結界が優れていたからと
異議申し立てし、それが認められ、
再戦の運びとなるのです。
その戦い以上に、
それを制したあとの泉水子の提案した
要求こそが読みどころです。
それにしてもこの高柳一条、
RDG2で宗田真澄に倒された段階で
お終いかと思っていた
キャラクターです。
高柳に続いて
どんな強敵が現れるのかと思えば、
終始彼が敵勢力の中心なのです。
やられてもなお往生際悪く
立ち上がる様は、
嫌悪を越え、
滑稽を越え、
哀愁すら感じさせます。
RDG6のさらなる山場②
学園外の敵が動き始める
高柳さえも味方に取り込んだ
泉水子ですが、
終盤近くで学園外にもまだまだ敵が
存在していることが
明らかになってくるのです。そして
泉水子に拉致・誘拐というピンチが。
これまでにない緊迫感を帯びて、
物語は終盤を一気に駆け抜けます。
RDG6のさらなる山場③
泉水子と深行の恋の行方
そして最後の1ページに
大きな山場が。
「深行は命じるように言った。
そして、
背をかがめて顔を近づけた。
泉水子がまだ知らないことは、
星の数ほどあるのだった。」
他の青春小説であれば
ありふれた平凡な場面なのでしょうが、
ここまでの二人の経緯を見る限り、
これが最大の山場と言ってふさわしい
物語の幕切れです。
控えめな表現で淡々と描いている分、
二人の心情が実によく伝わってきます。
一月に一冊ずつ、
味わうように読みました。
将来起こることが確定している
人類滅亡の回避という壮大なテーマ、
修験道や陰陽道、忍法といった
古代から連綿と続く日本の信仰様式、
姫神や精霊といった
自然を越えた存在、
そうしたものを扱いながら、
物語を学園内にとどめ、
読み手の現実感から
逸脱しないようにする筋書きに、
強く引きつけられました。
次から次へとめまぐるしく変化する
展開ではなく、
日常の空気が少しずつ
変わっていくような緩慢な展開は、
決して冗長にはならず、
これも読み手を引きつけることに
作用しています。
泉水子と深行の若い二人の関係も、
歯がゆいほど
じわじわと進行するからこそ、
現実味があり、感情移入できるのです。
レッドデータガール全6巻、
これは優れたファンタジー小説であり、
中学生にぜひ薦めたい作品です。
本としては角川スニーカー文庫からも
出版されているのですが、
酒井駒子装幀表紙画の
角川文庫版を強くお薦めします。
(2021.6.1)