登場人物はすべてどこか憎めない面々
「ブロードウェイの天使」
(ラニアン/加島祥造訳)
(「百年文庫040 瞳」)ポプラ社
金に貪欲なノミ屋のベソ公は、
若い男が借金の担保に
置いていった幼い少女・
マーキーを養育することになる。
天使のような笑顔を振りまく
マーキーと暮らしていく中で、
孤独であり偏屈だった
ベソ公の表情は
次第に変わっていく…。
性格のねじくれた人間が、
美しい心を持った子どもと接するうちに
純化されていく、
そんな小説はいくらでもありそうです。
わかっていても、物
語の中についつい
のめり込んでしまいます。
引きつけられる理由は、
やはり登場人物が魅力的だからです。
マーキー以外は
いわゆるギャングだらけなのですが、
すべてどこか憎めない面々です。
主人公である「ベソ公」は、
金の亡者とでもいえそうな男で、
僅かな金をだまし取っては
しっかりとため込んでいるのです。
「ベソ公ってのは
背の高いやせた男で、
顔は長くて悲しげで
意地悪そうだし、
声も陰気な声だ。」
それがマーキーと出会って以降、
「以前のようにもの哀しげで
意地悪の下品な口つきじゃあ
なくなって、
時には気持のいい顔だと
思うことさえある。」
人間、変われば変わるものなのです。
周囲の人物もいい味を出しています。
「さいころ振りのビッグ・ニッグ」
「すけこまし」
「ちぢれ耳のウィリー」
「外国人のジョイ」
「うらなりのキッド」
名前だけでも一癖も二癖もありそうな
悪党揃いです。
「ちぢれ耳のウィリー」などは
ベソ公の命を狙って懐に拳銃を
しのばせていたにもかかわらず、
最後の場面ではベソ公の哀しい運命に
すすり泣きすらしているのです。
そしてなんといっても
愛らしいマーキー。
3~4歳であるにもかかわらず、
特技は「マーキーのダンス」。
「マーキーはテーブルの間を
とんだりはねたりしはじめる。
その小さな短いスカートを
両手でつまみあげてるんで、
その下の白いパンティが丸見えだ。」
「おれも、このマーキーの踊りは
大好きになる。
ただし、しまいには
つまずいてころんじまう。
だけどすぐ
笑いながら立ち上がって、
それから椅子によじのぼり、
ベソ公に頭をもたせかけて
じきに寝入っちまうんだ。」
素敵な情景が見えるようです。
デイモン・ラニアンは
初めて読む作家ですが、
O・ヘンリーに勝るとも劣らない
面白さの短編小説です。
さっそく絶版となっている
短編集文庫本を購入しました。
近いうちに読みたいと思います。
(2021.6.9)