尽きせぬ魅力の乱歩世界
「江戸川乱歩全集第20巻
堀越捜査一課長殿」
(江戸川乱歩)光文社文庫
警視庁捜査一課長・堀越貞三郎は、
ある日、
非常に分厚い封書を受け取った。
書簡箋七八十枚ほどに
及ぶそれを、
一通り読み通した堀越は、
興奮を抑えることが
できなかった。
彼が解決できなかった事件の
真相が綴られていたのだ…。
「堀越捜査一課長殿」
光文社文庫による
文庫版の江戸川乱歩全集。
第20巻は昭和31年32年の作品を
集めたものとなっています。
この頃の乱歩の執筆活動は
少年ものがほとんどで、
大人向けは表題ともなっている
「堀越捜査一課長殿」
ただ一篇だけとなっています。
「ウワン、ウワン、ウワン…」という
不気味な音とともに現れる
巨大な魔人の顔。
不思議な力を持つ魔人ゴングは、
花崎検事の娘・マユミと
その弟・俊一の誘拐を企てる。
マユミの叔父でもある
明智小五郎、そして少年探偵団が
立ち上がる…。
「妖人ゴング」
「妖人ゴング」「魔法人形」
「サーカスの怪人」の一連の
少年探偵団シリーズは、
3作とも昭和32年の作品です。
それぞれ「少年」「少女クラブ」
「少年クラブ」に一年間
連載されたものです。
3作品とも怪人二十面相が
「青銅の魔人」「宇宙怪人」
「海底の魔術師」といった
化け物コスプレ路線から脱却した分、
どうしてもスケールダウン
しているように感じられてしまいます。
小学校五年生のルミをさらった
怪老人の手がかりを
掴んだ小林少年。
彼はアジトとみられる洋館に
単独で潜入する。
鎧櫃の中に身を隠した
彼だったが、不覚にも
その中に閉じ込められてしまう。
やがてその隙間から
火の手が見えて…。
「魔法人形」
しかしながら、
殺人未遂まで犯し
ハードボイルド化した二十面相の
「妖人ゴング」、
小林少年に代わって活躍する
少女探偵マユミを登場させた
「魔法人形」、
二十面相の優れた体術を生かし切った
「サーカスの怪人」など、
3作品とも
新しい魅力を打ち出しているのです。
少年探偵団員の
井上・野呂の二少年は、
ある日の夕暮れ、
怪しい骸骨男と遭遇する。
尾行する二人だったが、
骸骨男は町はずれの
サーカスのテントで
忽然と姿を消した。
サーカスの演目も
頂点に達した頃、
客席に骸骨男が姿を現し…。
「サーカスの怪人」
特に「サーカスの怪人」では、
二十面相の過去と本名が
明らかになるという
スペシャル企画が潜んでいます。
本名は「遠藤平吉」。
特徴のない、なんと平凡な名前かと、
子ども心に感じた記憶があります。
近々「モボ朗読劇『二十面相』
~遠藤平吉って誰?~」という演劇が
上演されます。
今年、約60年ぶりに
怪人二十面相の本名が
話題になるかもしれません。
怪しいちんどん屋の、
「おもしろいものを
見せてあげる」という
言葉に誘われ、
少年探偵団員の井上、野呂、
そして井上の妹・ルミは
町はずれの古い西洋館に
入っていく。
その部屋の中には
ちんどん屋の姿はなく、
おそろしい西洋悪魔が…。
「まほうやしき」
そして最後の2作品は
ポプラ社刊の少年探偵団シリーズに
収録されていないものです。
月刊誌「たのしい三年生」に相次いで
連載された、
ほとんどがひらがなで書かれた
小学生低学年向け作品です。
この2作品では二十面相は登場せず、
「魔法博士」が悪事を働くのです。
しかしやっていることは
二十面相のコピーです。
小学校三年生の
サト子・ミドリ・サユリの三人は、
マンホールから現れた
西洋悪魔のような男を追い、
森の中の西洋館の前に立つ。
開いた二階の窓からは
女の子のけたたましい叫び声が。
ミドリは少年探偵団員である
兄に相談する…。
「赤いカブトムシ」
確かに初期の短篇作品のような
切れ味もありません。
初期の二十面相のもっていた
インパクトも薄らいでいます。
でも、これも乱歩の世界なのであり、
尽きせぬ魅力が
まだまだ詰まっています。
後期の乱歩の作品集、いかがですか。
(2021.6.11)
【青空文庫】
「妖人ゴング」(江戸川乱歩)
「魔法人形」(江戸川乱歩)
「サーカスの怪人」(江戸川乱歩)
「まほうやしき」(江戸川乱歩)
「赤いカブトムシ」(江戸川乱歩)
江戸川乱歩全集はいかがですか