ジュヴナイルとは、エンターテインメントの一つの形
「 大迷宮 」(横溝正史)
(「横溝正史少年小説
コレクション①怪獣男爵」)柏書房
「大迷宮」(横溝正史)角川文庫
突然の激しい夕立に遭い、
別荘まで戻れなくなった
滋と謙三は、
道中にあった洋館に
宿泊することになる。そこには
剣太郎という少年がいた。
夜中、不審な足音に
気づいた二人は剣太郎の様子を
見に行くが、
背後から薬を嗅がされ…。
横溝正史のジュヴナイル長編作品です。
「怪獣男爵」の続編であり、
悪玉の親分が怪獣男爵なのです。
しかも金田一耕助登場。
等々力警部とタッグを組んで、
事件解決に乗り出します。
【「大迷宮」事件メモ】
〔捜査関係者〕
金田一耕助…私立探偵。
等々力警部…警視庁警部。
木村巡査・高木巡査…所轄署巡査。
〔事件関係者〕
立花滋
…中学生。事件に巻き込まれる。
立花謙三
…滋の従兄の大学生。
鬼丸剣太郎
…洋館の主人の少年。
滋と謙三を宿泊させる。
鬼丸太郎
…剣太郎の父。世界的サーカス王。
行方不明。
鬼丸次郎
…剣太郎の叔父。科学者。
津川先生
…剣太郎の家庭教師。せむし。
射撃の名手らしい。
鏡三
…サーカスから逃げ出した少年。
珠次郎
…鏡三そっくりの少年歌手。
ヘンリー松村
…タンポポ・サーカス団長。
てんぐ面の男。
万力の鉄
…タンポポ・サーカス団員
どくろ男
…髑髏そっくりの顔をした謎の男。
怪獣男爵(古柳冬彦男爵)
…半獣半人の怪物。
天才生理学者の脳を移植。
一寸法師(音丸三平)
…怪獣男爵の忠実な手下。
井川刑事
…怪獣男爵の手下。にせ刑事。
北島博士
…古柳男爵の弟子。
古柳男爵の脳移植を行った。故人。
本作品の味わいどころ①
金田一より少年たちが大活躍
ジュヴナイルですので当然、
少年たちが活躍します。
中学校二年生の滋が主人公なのです。
しかも滋の行動の限界を
従兄の謙三がサポートし、
活動範囲を大きく広げています。
さらに剣太郎・珠次郎・鏡三という
三少年まで登場し、
物語を盛り上げます。
中でも鏡三は、
サーカス団員の特技を生かし、
綱渡りをして怪獣男爵の魔の手から
逃れるなど、見せ場をつくります。
徹底して子どもを前面に押し出し、
読み手である子どもたちのツボを
押さえた展開を繰り広げるのです。
本作品の味わいどころ②
悪人たちのバトルロワイヤル
万人に化けられる
乱歩の二十面相とは異なり、
怪獣男爵はその相貌からして
隠密行動には不向きです。
それを補うように、
忠臣・音丸や、手下どもを
巧妙に配置しているのです。
しかも怪獣男爵とは別行動をとる
「どくろ男」も登場、
「鬼丸次郎と津川」、
そして「元サーカス団員一味」と、
謎めいた人物が多数登場し、
どこまでが悪玉なのか
簡単には見破ることができない
仕掛けになっています。
さながら悪玉たちの
バトルロワイヤル状態を
呈しているのです。
本作品の味わいどころ③
軽井沢・東京・瀬戸内海の孤島
本作品の舞台は三つに分かれています。
一つは避暑地・軽井沢。
一つは東京。
そして一つは瀬戸内の孤島(迷路島)。
東京を舞台とした横溝作品は
いくつもあります。
また、瀬戸内海では
「獄門島」「悪霊島」「蜃気楼島の情熱」、
そして前作「怪獣男爵」と、
長編作品の舞台となっています。
軽井沢を舞台とした横溝作品は
「仮面舞踏会」「霧の山荘」「香水心中」等の
金田一シリーズのほかに、
ノンシリーズ長篇作品「呪いの塔」が
あります。
横溝得意の舞台をすべて掛け持ちする
豪華な設定となっているのです。
そのほかにも「隠し財産」
「気球での逃亡」
「同じつくりの複数の洋館」
「地上と地下に広がる巨大迷路」等々、
子どもたちに対するサービス精神に
満ち溢れています。
「子ども向け」などと
侮っていてはいけません。
ジュヴナイルとは、
エンターテインメントの
一つの形なのです。
少年の心に戻って、
本作品に漲る横溝の心遣いに
どっぷりと浸かりましょう。
そのほかにも「隠し財産」
「気球での逃亡」
「同じつくりの複数の洋館」
「地上と地下に広がる巨大迷路」等々、
子どもたちに対するサービス精神に
満ち溢れています。
少年の心に戻って、
本作品に漲る横溝の心遣いに
どっぷりと浸かりましょう。
※三つ子のために用意された
軽井沢の三つの洋館に次いで、
同じ構造の洋館が
東京にも造られていたのですが、
二つまでしか登場しない
中途半端さや、
「大迷宮」という表題に沿った
巨大迷路を設定しておきながら、
迷路内の冒険がないこと
(設計者が案内するため、
冒険にはなっていない)など、
盛り込んだ要素を
生かし切れていない面も
見られるのですが、
それには目をつむるべきです。
※なんと、柏書房から今度は
「横溝正史少年小説コレクション」
全7巻が刊行されるとのこと。
その第1巻が怪獣男爵三部作
(「怪獣男爵」「大迷宮」
「黄金の指紋」)。
まもなく発売、期待が高まります。
(2021.6.18)
〔娘のつくった動画もよろしく〕
こちらもどうぞ!
ぜひチャンネル登録をお願いいたします!
(2024.7.24)
〔追記〕
「横溝正史少年小説コレクション」を
買いました。
感動です。
アイキャッチ画像を
そちらに変えました。
(2021.7.5)
〔追記〕
角川文庫版「大迷宮」が、
ついに復刊となります。
旧版も所有しているのですが、
復刻版も予約してしまいました。
(2022.7.17)
〔追記〕
買いました。復刊「大迷宮」。
表紙絵は全く同じです。
上の写真は復刊版、下は昭和版です。
(2022.8.28)
〔「横溝正史少年小説コレクション①」〕
怪獣男爵
大迷宮
黄金の指紋
巻末資料
編者解説
【横溝ジュヴナイルはいかが】
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