「百年文庫040 瞳」

おそらくは光り輝く「瞳」

「百年文庫040 瞳」ポプラ社

「ブロードウェイの天使
           ラニアン」

金に貪欲なノミ屋のベソ公は、
若い男が借金の担保に
置いていった幼い少女・
マーキーを養育することになる。
天使のような笑顔を振りまく
マーキーと暮らしていく中で、
孤独であり偏屈だった
ベソ公の表情は
次第に変わっていく…。

「子供たち チェーホフ」
グリーシャ、アーニャ、
アリョーシャ、ソーニャ、
アンドレイの
五人の子どもたちは、
食堂で遊びに興じている。
本当はもう
寝る時間なのだけれど、
パパもママも出かけていて
大人は誰もいない。
子どもたちだけの
至福の時間は…。

「悲恋 モーパッサン」
放浪修行をしていた
画家の「わたし」は、
ある田舎の宿屋で
年増の英国夫人
ミス・ハリエットと出会う。
彼女は
新教の布教活動を行っているが、
ひどく無口で愛想も悪い。
しかし「わたし」は
なぜか彼女のことが気になる…。

百年文庫第40巻、テーマは「瞳」。
3作品とも「瞳」が
直接的なキーワードとして作品中に
登場しているわけではありません。
おそらくは光り輝く「瞳」、と
いうことなのでしょう。

ラニアンの作品では、
もちろん少女・マーキーの瞳が
キラキラしているのですが、
彼女の存在によって変容していく
ベソ公の眼も輝いていったはずです。
チェーホフの夜更かしをしている
子どもたちの瞳も
輝いていたのでしょう。
夜更かしは子どもにとっては
何ともいえない
わくわく感がありますから。
「悲恋」のミス・ハリエットの瞳も、
自分が信じて愛した「神」と
同等の男性と出会ったのですから、
輝いていたに違いありません。

さて、子どもたちしか登場しない
チェーホフ作品は別として、
ラニアンと「悲恋」は
主人公の引き際の良さが秀逸です。
悲しいほどの美しさを感じさせます。

ベソ公は少女・マーキーの
実の親が現れ、別れを悟ると
「『おれにその金をすぐに送ってくれ。
 そうすりゃあ、あんたの名前を
 台帳から消せるからな』
 そう言ってベソ公は
 歩いて病院を出て行く。
 やつは二度と振り返らないぜ。」

「悲恋」の主人公、画家レオンの回想の
最後の情景も
神々しいまでの気高さがあります。
「大空も神々もご照覧あれと、
 わたしは窓をあけ放ち、
 カーテンを引きました。
 それから、冷たい死骸にこごんで、
 彼女の見る影もない顔を
 両手でかきいだくと、
 いささかの恐怖も、
 不快も感ずることなく、
 ゆっくりと、接吻を、長い接吻を、
 その一度も受けたことのなかった
 唇の上にしました。」

三篇の作者は
アメリカのラニアン、
ロシアのチェーホフ、
フランスのモーパッサン
ラニアンの名前は
本書で初めて知りました。
先日短編集の文庫本を
入手していますので、
近々読んでみたいと思います。
チェーホフ
戯曲ものばかり読んでいました。
こんな素敵な短篇があるなんて。
こちらも探して読みたいと思います。
モーパッサン「女の一生」を読んで
感銘を受けました。
これから長く付き合っていきたい
作家たちです。

(2021.6.24)

※百年文庫はいかがですか。

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※百年文庫の記事です。

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