ひねりも何もありません。
「化物屋敷」(丸亭素人)
(「明治探偵冒険小説集4」)
ちくま文庫
「予」は倫敦郊外の
池尻という片田舎に
風色眺望素晴らしく
邸内広く庭もまた広いという
格安物件を見つけ、
一家をあげて移り住んだ。
だが妻は、「何だかこの家は
薄気味が悪い」という。
ある夜、妻は
階段を上がってくる
足音を聞き…。
本書「明治探偵冒険小説集4」は、
「露伴から谷崎まで」という
副題が付されているとおり、
幸田露伴、国木田独歩、
谷崎潤一郎といった文豪の名前が
見られるアンソロジーです。
が、全9編中、名前を知っているのは
その3人だけ。
あとはまったく知りませんでした。
先日取り上げた梅の家かほるは
生没年不詳の謎の多い作家でしたが、
この丸亭素人も生地不詳の
謎の多い人物です。
ネットで調べても
たいした資料は検索されません。
「東京日日新聞記者」
「黒岩涙香が翻訳していた「美人之獄」を
連載途中から引き継ぐ」
「ガボリオの「オルシヴァルの犯罪」を
「殺害事件」と題して訳す」
「ヒュームの「二輪馬車の秘密」を
「鬼車」として訳す」等が
見つかったくらいです。
さて、格安物件に移り住んだら
夜中に心霊現象のようなものが現れ、
家族が肝を冷やすという、
幽霊屋敷のような筋書きが
冒頭から始まります。
しかし一家の主である「予」は、
それを認めず、
その原因を探り始めるのです。
そこから何か事件が始まり、
「予」が探偵役となる
「明治探偵小説」なのだろうと
予想しながら読み進めましたが、
一向に事件らしい展開は現れません。
やがて恐怖に耐えかねた乳母が
暇を願い出て、
「予」は代わりの下女を探すために
近隣在郷を駆け回るのですが、
なぜか池尻の地名を出しただけで
断られる始末です。
この人材探しから
何かアクシデントに巻き込まれ、
「予」の冒険譚が始まる
「明治冒険小説」なのだろうと
先読みしながら頁をめくったのですが、
「予」は仕方なく帰宅するのみです。
「明治探偵小説」でもなく
「明治冒険小説」でもない本作は、
一体何?
最後に本物の幽霊が登場し、
そのような疑問は
たちどころに氷解しました。
純粋な「幽霊屋敷物語」です。
表題の通り「化物屋敷」です。
きわめてストレートです。
ひねりも何もありません。
巻末の解説には、
明治27年に出版された本の付録として
出された旨が書かれてありました。
明治27年といえば
まだまだ日本文学の黎明期。
西洋を舞台とした幽霊ものは
新鮮だったのでしょう。
明治の文学界を知る
貴重な資料としてご一読を。
ただし本書もまた絶版中です。
※黒岩涙香の
「幽霊塔」「生命保険」のように、
舞台はイギリスでありながら、
登場人物や生活習慣描写は
日本のそれに置き換えてあります。
(2021.6.28)
※本書に収録されている
作品の記事です。
※「明治探偵冒険小説集」は
いかがですか。