血湧き肉躍る探偵ジュヴナイル
「 黄金の指紋 」(横溝正史)
(「横溝正史少年小説
コレクション①怪獣男爵」)柏書房
「黄金の指紋」(横溝正史)角川文庫
「これを金田一耕助に…」。
難破船の遭難者から手渡された
黄金の燭台。
邦雄少年は誰にも知らせず、
その言付けを実行する。
しかしその黄金の燭台をめぐって
二組の悪人たちが暗躍していた。
東京に帰る邦雄少年を狙って
列車には…。
横溝正史のジュブナイル長編、
しかも怪獣男爵シリーズ第3弾です。
「怪獣男爵」「大迷宮」に負けず劣らずの
白熱した冒険が繰り広げられます。
【主要登場人物】
野々村邦雄
…黄金の燭台を託される中学生。
玉虫安麿
…元侯爵の老人。
孫の小夜子を捜索する。
海野清彦
…秀麿の友人。
黄金の燭台を邦雄に託す。
玉虫小夜子
…鉄仮面の少女。
悪人たちに拉致されている。
玉虫猛人
…安麿のおい。二重眼鏡の大男。
しょうきひげの男
…灯台守を殺害した悪人。
カオル
…しょうきひげの相棒。黒衣の女。
倉田万造
…義足の男。地下宮殿元首領の悪人。
恩田
…やぶにらみの若い男。倉田の部下。
怪獣男爵
…半獣半人の怪物。
天才生理学者の脳を移植。
音丸
…怪獣男爵の忠臣。
等々力警部…警視庁警部。
金田一耕助…私立探偵。
本作品の読みどころ①
複数の悪人が参戦、大バトル
大人向けの横溝作品は、
怪しい人間ばかりが登場し、
でも真犯人は怪しくない
人物であることが往々にしてあります。
ところが本作品は悪人だらけ。
整理すると、
大悪党はしょうきひげとカオルの
コンビ(燈台守殺害だけでなく、
それによって船舶が転覆し、
死者47名、行方不明者40数名という
大惨事を引き起こした)、
次いで怪獣男爵・音丸コンビとその一味、
小悪党が倉田・恩田ペアといった
ところでしょうか。
燭台を狙うチームと
小夜子本人を狙うチームが合い乱れ、
大バトルを展開します。
本作品の読みどころ②
前面に出て冒険する金田一
ジュブナイルものでは一歩引いて
活躍を少年に譲る金田一ですが、
本作品では前面に立って
バリバリ冒険をします。
敵のアジトに
単身潜入していたかと思えば、
袋詰めにされて海に放り込まれたり、
ピストルで胸を
撃ち抜かれたかと思えば、
怪獣男爵と直接対決に及んだりと、
これだけ積極的行動的な金田一は
本作品でしか味わえないでしょう。
本作品の読みどころ③
舞台も人物も小道具もサービス満点
瀬戸内海の小島という冒頭の舞台設定、
そこで起こる難破船事故、
謎の消えた遭難者、
地下室をはじめとした
いくつかの仕掛けを持つ怪洋館、
鉄仮面を被らされた謎の少女、
軽気球での脱出、
サーカスを舞台とした
怪獣男爵との対決、
人形のすり替え、変装術など
これでもかというくらい、
本作品でも横溝は
惜しみなく手札を切って
読み手に勝負を仕掛けてきます。
血湧き肉躍る
探偵ジュヴナイルの傑作です。
今の子どもたちには
受けないでしょうが、
昭和の時代に少年だった
大人のあなたにお薦めします。
※角川文庫版は、
山村正夫による編集が
大きく為されているようです。
昭和26年から27年にかけて
少年誌に掲載された
作品であるにもかかわらず、
邦雄少年は新幹線ひかり号に乗って
岡山から東京へと帰っています
(山陽新幹線開通は昭和47年)。
これによって時代的な雰囲気に
ちぐはぐ感が生じていることは
否めません。
※今日発売予定の柏書房刊
「横溝正史少年小説コレクション1」は
単行本を底本とするオリジナル版を
収録するということです。
本作品も収録されています。
改変前のオリジナルが
どのようなものなのか、
楽しみです。
(2021.6.30)
〔追記〕
「横溝正史少年小説コレクション」を
買いました。
感動です。
アイキャッチ画像を
そちらに変えました。
(2021.7.5)
〔追記〕
角川文庫版「黄金の指紋」が、
ついに復刊となります。
旧版も所有しているのですが、
復刻版も予約してしまいました。
(2022.7.17)
〔追記〕
買いました。復刊「黄金の指紋」。
表紙絵は全く同じです。
(2022.7.25)
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