「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」(ブレイディみかこ)

ノンフィクションとして正しく読まれるべき作品

「ぼくはイエローでホワイトで
         ちょっとブルー」
(ブレイディみかこ)新潮文庫

慌ただしく学校に行った
息子の部屋に掃除に行くと、
机の上に国語ノートが
開かれたままになっていた。
ふと、右上の隅に、
息子が落書きしているのが
目に入った。
青い色のペンで、
ぼくはイエローでホワイトで、
ちょっとブルー…。

2019年のベストセラー作品が
先日文庫化され、
ようやく読むに至りました。
面白かったです。
そして考えさせられました。
著者親子が英国で経験した、
そして見聞きした、
差別と偏見、
多様性とマイノリティ、
ナショナリズム、
経済格差と小さな政府、
LGBTQ、…。
すべてこれからの世の中で
真剣に議論されるべき問題であり、
それらが著者親子周辺の
身近なものとして語られていきます。

私が特に引きつけられたのは
「多様性」について書かれた場面です。
クラスメイト二人が、
ともに移民であるにもかかわらず
ヘイトをぶつけ合っていることに
心を痛めた息子と著者は、
「多様性」について考えます。
「多様性っていいことなんでしょ?
 学校でそう教わったけど?」
「多様性は
 うんざりするほど大変だし、
 めんどくさいけど、
 無知を減らすからいいことなんだと
 母ちゃんは思う」

高いところからもっともらしい正論や
自説を振りかざすのではなく、
等身大の大人として
率直に語っているところに
好感が持てます。
おそらく息子さんはそこからさらに
自分で一生懸命考えたのでしょう。
だからこそ読み手もまた自分の頭で
考えざるを得なくなるのです。

もしかしたら、
移民の多いイギリス特有の問題、と
切り捨ててしまう日本人も
多いことでしょう。
しかしこうした「多様性」の問題は、
日本の未来に必ず持ち上がる問題だと
私は思います。
人口減を迎える私たちの国が、
衰退を避けなながら
国土を維持していくとすれば、
近い将来、移民受け入れに
舵を切らざるを得ないと思うのです。
いや、現在でも不法就労も含め、
数多くの外国人が
日本で生活しています。
私たちの国はすでに多様化する社会に
移行しつつあるのです。

本書はノンフィクションとして
正しく読まれるべき作品です。
親子の異文化体験物語といった、
小説的作品として接すると、
優等生過ぎる息子の言動や、
大きなトラブルに巻き込まれない
親子の描かれ方に、
違和感を覚えるに違いありません。
あくまでも現代社会の矛盾点を
リアルなものとして
捉えていくことにこそ、
本書を読む意義があると考えます。
中学生に強く薦めたい一冊です。

※そういう意味でも、
 カバー裏の紹介文の末尾
 「感動のリアルストーリー」は
 いただけません。
 編集者が内容を
 正しく理解していなかったのか、
 それとも売れればいいという考えが
 強かったのか。
 新潮文庫は日本の読書文化を支える
 良識のある出版社である分、
 残念な気がしました。

(2021.7.12)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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