これこそ横溝ジュヴナイルの本来の姿
「横溝正史
少年小説コレクション①怪獣男爵」
(横溝正史)柏書房
「怪獣男爵」
史朗・太ァ坊・宇佐美青年の
三人が、漂着した瀬戸内海の
孤島に建つ洋館で見たのは、
ゴリラと人間の合成体のような
怪物だった。
それはかつて凶悪事件を起こして
死刑を執行された
古柳男爵のなれの果てだった。
その名は怪獣男爵…。
今ではほとんど
忘れ去られようとしている
横溝正史のジュヴナイル作品。
それがいよいよ柏書房から
復刊される運びとなりました。
その名も
「横溝正史少年小説コレクション」。
全7巻の刊行予定の
第1巻である本書には、
横溝の生み出した悪役キャラ・
怪獣男爵の登場する3作品
「怪獣男爵」「大迷宮」「黄金の指紋」が
収録されています。
実は角川文庫刊のジュヴナイル
全16冊すべて所有しているのですが、
それでも本書を購入してしまいました。
その理由の一つは
原点版で収録されているという点です。
角川文庫版は
すべて編集が加えられていて、
漢字や仮名遣いが
改められただけでなく、
当時の文庫版刊行時にあわせて
時代設定等においても
変更が加えられているのです。
一例として角川文庫版「怪獣男爵」の
冒頭一ページだけをみてみます。
「周囲が約四キロ、
全島が赤松におおわれた小島」
「まわりにひろい堀をめぐらせて」
「もしきみたちがこの島のほとりを」
(角川文庫版)
「周囲一里、
全島赤松におおわれた小島」
「まわりにひろい濠をめぐらせて」
「もし皆さんがこの島のほとりを」
(柏書房版)
たったこれだけと
思われるかもしれませんが、
これが全編に及べば
印象がだいぶ異なってくるはずです。
「大迷宮」
突然の激しい夕立に遭い、
別荘まで戻れなくなった
滋と謙三は、
道中にあった洋館に
宿泊することになる。そこには
剣太郎という少年がいた。
夜中、不審な足音に
気づいた二人は剣太郎の様子を
見に行くが、
背後から薬を嗅がされ…。
理由の二つめは、オリジナル挿画が
収録されているという点です。
「怪獣男爵」には10点、
「大迷宮」12点、
「黄金の指紋」13点の挿画が
収められているのです。
これがジュヴナイルの雰囲気を
最大限に盛り上げているのです。
中でも「大迷宮」は本文割り込みの
素敵なレイアウトであり、
筋書きの躍動感が
しっかりと伝わってきます。
ちょうどポプラ社刊の
乱歩・少年探偵団シリーズと
同様のテイスト。
ジュヴナイルはやはりこうでなくては。
「黄金の指紋」
「これを金田一耕助に…」。
難破船の遭難者から手渡された
黄金の燭台。
邦雄少年は誰にも知らせず、
その言付けを実行する。
しかしその黄金の燭台をめぐって
二組の悪人たちが暗躍していた。
東京に帰る邦雄少年を狙って
列車には…。
編者による巻末の解説も資料価値が高く
読み応えがあります。
一冊の値段が
税込み3,080円と高価ですが、
それだけの価値はあると考えます。
これこそ横溝ジュヴナイルの
本来の姿です。
かつて少年向け推理小説に
胸をときめかせたあなたに
お薦めします。
※できれば角川文庫から
杉本一文の新しい表紙装丁画で
復刊して欲しいという
気持ちがありました。
また、論創社
「横溝正史探偵小説選Ⅰ~Ⅴ」に
収録された作品もあわせて
完全全集として
出版して欲しいという
気持ちもありました。
横溝正史の完全個人全集というのは
実現不可能なのでしょうか。
(2021.7.13)
【今月末、早くも第2巻刊行】
【今日のさらにお薦め3作品】
①少年少女の心でファンタジー
「モモ」(エンデ)
②少年少女の心でサイエンス
「ミジンコはすごい!」(花里孝幸)
③少年少女の心で純文学
「一房の葡萄」(有島武郎)
【横溝ジュヴナイルの記事です】
【横溝ジュヴナイルはいかが】