「お守り」(山川方夫)②

絶対に誰をつれてきても代用できない一人の人間なのだ

「お守り」(山川方夫)
(「夏の葬列」)集英社文庫

「お守り」(山川方夫)
(「親しい友人たち」)創元推理文庫

「ぼくは任意の一点なんかではない。
 ぼくはぼくという、
 関口次郎という特定の人間、
 絶対に誰をつれてきても
 代用できない一人の人間なのだ」

昭和30年代だけでなく、
いつの時代でも通用する
切実な一節です。

私は中学校教員として
30年近く教壇に立ってきました。
金子みすゞではありませんが
「みんなちがってみんないい」と
いうことを大切にしてきたつもりです。
平成の世の中になって、
教育の個性化個別化が叫ばれたことは
素晴らしいことだと感じ、
そのための教授法や教材を
研究してきたつもりです。

最近、風向きが
大きく変わってきました。
「子どもたちの個性を伸ばす」という
かけ声は変わらないものの、
そのための教え方や教材が
統一化されてきているのです。

授業の導入では
その時間の「めあて」を板書し、
その文言を青色のチョークで囲む。
授業のまとめでは
そのポイントとなる文章を
赤色のチョークで囲む。
授業の形式を徹底的にルーティン化し、
みんなが同じように教えて
成果を上げる。
「教育のユニバーサル・デザイン化」と、
言葉の響きは心地よいのですが、
違和感がぬぐい去れません。

教科がちがえば、
そして教える人間がちがえば、
さらには教わる側の状況が変われば、
教え方は自ずと
ちがってくるはずなのですが、
ことさら教え方の「統一」が
図られています。

確かに誰が教えても
同じように成果が上がるのであれば、
子どもたちにとっては
いいことなのかも知れません。
教師による当たり外れがあること自体、
良い状況とはいえないのですから。
しかし、
教える側の教師が画一化された状態で、
どうやって子どもたちに
個性を伸ばせと言えるのでしょうか。

子どもであれ大人であれ、
それぞれのちがいを認め合い、
その良さを認め合い、
そこから自分に足りないものを
吸収するとともに、
自分の長所・特質を
さらに磨き高めていく。
切磋琢磨できる場こそが
人間の能力を最大限に高められる
環境ではないかと思うのです。

「みんなちがってみんないい」という
時代は過去のものに
なりつつあるのかも知れません。
しかし、
「絶対に誰をつれてきても
 代用できない
 一人の人間なのだ」
という感覚は、
人間の尊厳に関わる
大切なものだと思うのです。
時代の流れに負けることなく、仕事に
取り組んでいこうと思っています。

(2021.7.14)

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