「流の暁」(快楽亭ブラック)

明治の文壇はお堅い先生ばかりではなかった

「流の暁」(快楽亭ブラック)
(「明治探偵冒険小説集2」)ちくま文庫

革命の嵐を逃れて
英国へと渡った沢辺男爵。
彼は現地の女性と結婚するが、
仏国の情勢が収まると、
妻・おせんに何も言わずに
帰国してしまう。
そのときおせんの胎内にはすでに
沢辺の子種が宿っていた。
双子の男の子が生まれるが…。

ちくま文庫から全4巻で刊行された
「明治探偵冒険小説集」。
第3巻「押川春浪集」を読み、
そのあまりの面白さに驚き、
第1巻「黒岩涙香集」の
奥深さに感銘を受け、
第4巻「露伴から谷崎まで」で
新たな発見に出会い、とうとう
残る第2巻も購入してしまいました。
やはり面白さ抜群です。

【主要登場人物】
沢辺保
…仏国貴族、男爵。
 革命時に英国へ脱出。
 のちに妻を置き去りにして帰国。
おせん
…沢辺の英国での妻。
 二人の男児を産む。
丈治
…おせんの生んだ子の一人。
 生まれてすぐ棄てられる。
次郎吉
…おせんの生んだもう一人。
 ヤクザ者。
おるい
…沢辺の娘。沢辺に内緒で
 役者の栄三郎と結婚している。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
舞台は英仏、印象は江戸

この頃の翻訳物の傾向として、
舞台はそのままに据え置きながら
人名を日本風に変えてあります。
そのため、読み手の頭の中では
イギリスと日本があちこちで入り乱れ、
カオス状態となってしまうのです
「私は次郎吉という名前じゃないよ、
 先程申した通り
 スレドニードストリート十八番街に
 所帯を持っている文兵衛と云う
 金貸の番頭で丈治と云う者だ。」

なんだこりゃ!?

本作品の味わいどころ②
筋書きは犯罪小説、語り口は落語

沢辺男爵の双子の落とし胤の
片方が他方を殺害、
さらには知らぬこととはいえ
妹を罠にかけようとする
犯罪小説でありながら、
語り口は落語そのものです。
「何だ乃公(おれ)の方で
 種を蒔いたと、
 篦棒(べらぼう)な事を
 吐(ぬか)しゃアがるナ」

なんだこりゃ!?

名前から想像つくように、
作者・快楽亭ブラックは
イギリス人で落語家。
それでいて講釈師、奇術師、
さらには作家までこなすという
幅の広い活動をした人物です。
ただし本作品を含め、
残された作品はすべて口述筆記。
本人の語りをそのまま速記者が
書き留めたのですから
まんま落語なのも当然です。
そのおかげで
明治の文章であるにもかかわらず、
小気味よいテンポで
読み通すことが可能となっています。

本作品の味わいどころ③
18世紀末の英仏と
明治の日本の文化比較

ところどころに
作品の舞台である18世紀末と、
語っている時代の明治の日本の
文化比較が現れます。
現代の私たちが読むと、
200年前の欧州と
100年前の日本が対比され、
それだけでも十分面白く読めます。

面白い。本当に面白いと思います。
押川春浪といい、黒岩涙香といい、
そしてこの快楽亭ブラックといい、
明治の探偵冒険小説は
なんて面白いんだ!
心の底からそう思います。
明治の文壇は鷗外漱石のように
お堅い先生ばかりではなかったのです。
十分にエンターテインメントが
芽吹いていたのです。
読書のたのしみが
広がる一篇なのですが、
残念なことに絶版となっています。
古書をあたるしかありません。

※そもそも表題はどういう意味?
 読み方は「ながれのあかつき」?
 それとも「りゅうのあかつき」?
 そこがよくわからず
 モヤモヤ感を抱えています。
 どなたかご存じの方
 いらっしゃいませんか?

(2021.07.15)

SnapwireSnapsによるPixabayからの画像

【国立国会図書館】
「流の暁」(快楽亭ブラック)

【「明治探偵冒険小説集」の記事】

【「明治探偵冒険小説集」】

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