教育に携わるすべての人に一読して欲しい
「キャリア教育のウソ」(児美川孝一郎)
ちくまプリマー新書
キャリア教育の必要性が叫ばれてから
十数年たちました。
なんでも若者が就職できない、
それは教育が悪いせいだと。
学校で仕事について
きちんと教えていないから
若者が就職できないんだと。
だからキャリア教育が必要なのだと。
しかしふと思ってしまいます。
「私たちはキャリア教育など
受けなかったけれど、みんなしっかり
就職したのですが…」。
大きな疑問を持っていました。
かつてはキャリア教育はおろか、
進路指導ですらなおざりだったのに、
どうして今の世代の若者は
就職できないのか。
ネットで調べて
少しずつわかってきました。
かつては選ばなければ日本人の全員が
なにがしかの職業に
就くことができたのです。
私(50代半ば)の世代はそうでした。
でも、平成の時代に規制緩和等があり、
世の中の状況の変化があり、
現在では同一年齢の約8割しか
正規雇用としての
就職先がない(らしい)のです。
何をどう頑張っても約2割の人間は
正規雇用されないしくみが、
現在の日本では存在する(らしい)のです
(本書出版時。
コロナ禍の現在はまた状況が異なる)。
キャリア教育をしようがしまいが、
約2割の子どもたちは
将来正規雇用されない。
それは本来は社会問題であり、
政府の政策の責任です。
それがまるで
教育にその責任があるかのように語り、
キャリア教育を押しつける。
就職できないのは学校の責任。
学校できちんと教えたにもかかわらず
就職できないのは本人の責任。
政府に全く責任はありません。
そう言っているようなものです。
では、
キャリア教育は不要なのかというと、
決してそうではありません。
このような現状だからこそ、
自分のかかわる生徒には、
しっかりとした職業観を
持たせるとともに、
確かな職業選択をさせたい。
いつもそう思っています。
そんなときに出会った一冊が本書です。
現在のキャリア教育のウソを暴きつつ、
今本当に必要な指導とは何か。
懇切丁寧に解説してあります。
「今年、小学校に入学した子どもの
65%は、大学の卒業時、
今は存在していない職業に
就くことになるだろう。」
米デューク大学の研究者である
キャシー・デビッドソン氏の言葉は、
今では広く知られるようになりました。
変化の激しい時代、
先のことは解らないのです。
キャリアプランに
どれだけの意味があるのか、
しっかり吟味する必要がありそうです。
「非正規雇用を見すえたキャリア教育」。
そうです。
それこそが今必要な教育なのです。
就職率を争うよりも、
自律的に生きていく資質を養う。
それが本来の
キャリア教育だと思うのです。
学校現場や企業に
負担を強いる職場体験や、
内定率100%を競うあまり、
就職できそうにない子どもを
専門学校に追いやる就職指導など、
首をかしげざるを得ない
「キャリア教育」が
あまりにもはびこりすぎています。
本当に必要な指導は何なのか、
学校も、文科省も、世の中も、
じっくり考える段階に
来ていると思います。
教育に携わるすべての人に
一読して欲しい一冊です。
(2021.7.21)
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