四十年たった今再読しても色褪せていません
「仮面城(山村正夫編集版)」
(横溝正史)(「仮面城」)角川文庫
「仮面城(原典版)」
(「横溝正史少年小説
コレクション②迷宮の扉」)柏書房
文彦が洋館にたどり着くと、
中からは少女の悲鳴が。
夢中で飛び込むと、
そこには頭に鮮血をにじませた
老人が倒れていた。
老人の娘・香代子は、
金色の小箱を文彦に託し、
秘密にすることを約束させる。
しかしその小箱をねらって…。
横溝正史の
ジュヴナイル・ミステリです。
ジョヴナイルといって
馬鹿にしてはいけません。
ジョヴナイルにはジュヴナイルの
面白さがあるのです。
特に本作品は、金田一耕助の登場する
面白さ満点の作品なのです。
【「仮面城」事件メモ】
〔捜査関係者〕
吉井刑事・村上刑事…警視庁刑事。
等々力警部…警視庁警部。
金田一耕助…名探偵。
〔事件関係者〕
竹田文彦
…小学校六年生。
自分を探しているという
老人に会いに行く。
竹田新一郎
…文彦の父。金田一と親交あり。
竹田妙子
…文彦の母。悪者集団に誘拐される。
大野健蔵
…文彦を探していた老人。
大野香代子
…健蔵の娘。文彦とおなじ年ごろ。
※原典版は小夜子
大野秀蔵
…健蔵の弟。銀仮面に誘拐された。
牛丸
…健蔵の助手の大男。口がきけない。
三太
…文彦の替え玉にされた少年。
無理矢理銀仮面の一味にされていたが
文彦に味方する。
吉本運転手
…三太の知り合い。三太に加勢する。
井本明
…日東キネマ映画監督。
加藤宝作
…日本屈指の宝石王。
井口
…加藤家の書生。
細川吉雄
…加藤宝作に大粒ダイヤの取引を
持ち掛ける。何者かに殺害される。
銀仮面
…かつて満州を荒らしていた盗賊。
悪の首領。仮面城の主。
魔法つかいのような老婆
…銀仮面の部下。宝石丸船長。
本作品の味わいどころ①
謎また謎のスリリング
なぜ大野老人は文彦を探していたのか?
文彦の前に現れた老婆は何者なのか?
大野老人は襲われたにもかかわらず
なにかを隠そうとしているのはなぜか?
老人の家の鎧の中にいた人物は誰か?
香代子の渡した金の小箱の秘密は何か?
…。
冒頭部分だけでも謎また謎の連続です。
これだけでもう少年だった私は
気持ちをわくわくさせていました。
四十年たった今再読しても
ワクワク感は色褪せません。
大人向けの横溝作品は、
冒頭部はゆっくりじっくり
展開していきます。
まどろっこしいほどですが、
そこに多くの伏線が
張られていることが多いためです。
ジュヴナイルは違います。
冒頭から直球勝負。
次から次へとミステリアスを
投げ込んできます。
謎また謎のスリリングを、
少年の心に戻って
じっくり味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
冒険者は一人じゃない
主人公・文彦少年が冒険します。
ジュヴナイルですから当然です。
でも、本作品で冒険するのは
主人公一人だけではありません。
銀仮面の手下だった三太も、
寝返って冒険します。
いたいけなヒロイン香代子も、
それなりに冒険しています。
大人向けミステリでは堅実かつ慎重、
どちらかといえば安楽椅子探偵の
金田一耕助も、なんとジュヴナイルでは
冒険しているのです。
登場人物が大胆に動き回る。
これでもう少年だった私は
胸をドキドキさせました。
四十年たった今再読しても
ドキドキ感は止まりません。
やはり少年少女三人が光ります。
惜しむらくは三人一緒の
活躍がなかったことでしょうか。
男子二人に女子一人の
黄金バランスです。
これで終盤あたりに
三人の活躍場面があれば、
数あるジュヴナイル・ミステリの中でも
最高傑作となった可能性があります。
それはともかく、
冒険者は一人ではない楽しみを、
少年の心に戻って
しっかり味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
ワクワクアイテム満載
雑木林の奥の怪しげな洋館、
魔法つかいのような老婆、
森の中に現れた西洋鎧の人物、
複数登場する秘密の抜け穴、
銀の仮面を被った怪盗、
宝石王の登場、
文彦と三太の腕にあるダイヤ型の痣、
移動要塞・宝石丸、
秘密のアジト・仮面城、…。
ワクワクするアイテムを、
次から次へと投入しまくる
旺盛なサーヴィス精神。
さすがは横溝です。
ここに至ってもう少年だった私は
興奮の頂点に達した記憶があります。
四十年たった今再読しても
興奮は冷めることがありません。
考えてみると、
それらのワクワクアイテムは、
その必要感が薄いにもかかわらず
登場しているのです。
だからといって不必要ではないのです。
雰囲気を盛り上げることは
何においても大切です。
大人向け作品の金田一シリーズでも、
「恐ろしい地名」「恐怖の伝説」
「先祖からの因縁」
「不気味な不審者」などの「アイテム」が、
おどろおどろしさの演出として
活用されているのですから。
それはさておいて、
ワクワクアイテム満載の楽しさを、
少年の心に戻って
たっぷりと味わいましょう。
まさにジュヴナイルの王道をいく、
横溝正史少年小説の頂点を為す
作品の一つです。
本記事投稿の7月23日現在では、
角川文庫版を電子書籍で
読むしかありませんが、
まもなく発売される
「横溝正史少年小説コレクション」
第2巻に
本作品がオリジナルの版で
収録されています。
急げ!書店へ。
(2021.7.23)
〔追記〕
「横溝正史少年小説コレクション」
第2巻を(娘が)購入しました。
収録されているのは「原典版」。
角川文庫収録は、山村正夫によって
編集の手が加えられた版になります。
大きな変更はないのですが、
①「です・ます調」から「である調」へ変更
②小夜子が香代子へ変更
が確認できました。
横溝自身の文章が味わえるという点で、
「少年小説コレクション」の刊行は
意義があると思います。
(2021.7.31)
〔追記〕
角川文庫版「仮面城」が、
ついに復刊となりました。
旧版も所有しているのですが、
復刻版も購入してしまいました
(娘が買っていました)。
表紙絵は全く同じです。
(2022.8.28)
〔関連記事:横溝ミステリ〕
〔角川文庫・横溝ジュヴナイル〕
〔「横溝正史少年小説コレクション」〕
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