「金色の魔術師」(横溝正史)

いいのか!?乱歩に怒られないのか?

金色の魔術師 」(横溝正史)
(横溝正史)角川文庫
(「横溝正史少年小説
  コレクション②迷宮の扉」)柏書房

七人の少年少女を生け贄にすると
宣言した金色の魔術師。
最初に狙われたのは滋の級友・
山本少年だった。
滋は達哉・公平とともに、
謎の空家にたどり着く。
鍵のかかった部屋の
扉の隙間から覗くと、
金色の魔術師が
今しも山本少年を…。

〔はじめに〕
金田一耕助登場の
横溝正史推理ジュヴナイル作品は
長編で五作品あり、これまで
「大迷宮」「黄金の指紋」「迷宮の扉」
「仮面城」を取り上げてきました。
もう一作がこの「金色の魔術師」です。
本作品はこれまでとは異なり、
盟友・江戸川乱歩の影響が
色濃く見られる構成です。

【「金色の魔術師」事件メモ】
〔「少年探偵団」メンバー〕
立花滋
…冒険好きな少年。少年探偵団の
 リーダーとして金色の魔術師を追う。
 「大迷宮」にも登場。
村上達哉
…滋の親友で冒険好き。
 あだ名はターザン。
 第六の生贄として誘拐される。
小杉公平
…滋の親友で冒険好き。
 あだ名はキンピラ。
 第五の生贄として誘拐される。
〔捜査関係者〕
金田一耕助…私立探偵。
等々力警部…警視庁警部。
黒猫先生…金田一耕助の知人。
ピエロ…黒猫先生の部下。
〔犯罪者一味〕
金色の魔術師
…七人の少年少女を
 生贄にしようとした怪人。
古川
…東都劇場係員。片足不自由、片目。
〔その他の関係者〕
山本史郎
…滋と同級生。
 第一の生贄として拉致される。
赤星博士
…理学博士。悪魔を崇拝する学者。
 精神に異常を来した宝石狂。
 容貌が金色の魔術師に酷似。
杉浦画伯
…画家。東都劇場美術担当。
雪子月江花代
…オリオンシスターズという姉妹俳優。
 第二・三・四の生贄として
 金色の魔術師に狙われる。
椿三郎
…舞台劇「金色の魔術師」を演じる役者。
〔事件の概要〕
・金色の魔術師、空き地で記述を披露。
①魔術師、山本史郎を誘い出し、誘拐。
・滋・村上・小杉、廃墟の礼拝堂で
 山本史郎が魔術師によって
 とかされるのを目撃。
・三少年・等々力、赤星博士と面会、
 赤星博士、逃走。
②魔術師、劇場から花代を誘拐。
・三少年、怪洋館で
 花代が消失するのを目撃。
③古川、雪子・月江を誘拐。
・三少年、劇場舞台で
 雪子が消失するのを目撃。
④魔術師、小杉公平を誘拐。
・滋・村上、サーカスにて
 月江が消失するのを目撃。
⑤魔術師、逃走中に部下・古川を殺害。
⑥魔術師、村上達哉を誘拐。
⑦滋・金田一・等々力、魔術師を捕縛。
 事件解決。

〔本作品の味わいどころについて〕
本作品の味わいどころ①
乱歩テイスト・勝手に少年探偵団結成

金色の魔術師と対決する主人公は、
「大迷宮」事件で活躍した立花滋少年。
彼は怪獣男爵相手に
怖い思いをしたにもかかわらず、
再び事件に巻き込まれるのです。
しかし今度は頼みになる従兄の大学生・
謙三は登場しません。
そこで同級生二人とともに
チームで魔術師と渡り合うのです。

ところがチーム名は何と「少年探偵団」。
乱歩の人気シリーズの名称を
そのまま流用しているのです。
いいのか!?乱歩に怒られないのか?

本作品の味わいどころ②
乱歩テイスト・あえて引っ込む名探偵

ジュヴナイル作品であるため、
主役はあくまでも
「少年探偵団」の三少年です。
大人の金田一耕助は
最後の最後に登場となるのです。
その「事情」はなんと、
「体調を崩して関西で静養中」とのこと。
しかし金田一は指をくわえて
見ていたわけではありません。
人知れず隠密行動をとっていたことが
終末で明らかにされます。

ところがこのやり方は
明智小五郎も得意としていました
(明智は敵に替え玉を捕らえさせ、
その裏での隠密行動によって
敵の正体が二十面相であることを
探るのを得意としていた)。
ライバル明智小五郎の戦法を真似して、
金色の魔術師の正体を探る金田一。
いいのか!?乱歩に怒られないのか?

本作品の味わいどころ③
乱歩テイスト・奇術的トリックの数々

日頃からサーヴィス精神旺盛な
横溝ですが、本作品で繰り出される
トリックも多種多様です。
いくつも現れる「人間消失」マジック、
部屋ごと上下するエレベーター構造、
宙に浮く黒人の首、
腹話術の使用などは、
それまでの横溝のジュヴナイル作品では
あまり見られなかったトリックです。

ところがこれらのトリックは
「少年探偵団」シリーズでは
おなじみとなったものです。
「人間消失」は「虎の牙」「透明怪人」などで
二十面相が披露しました。
「浮く生首」「腹話術」も
二十面相の常套手段です。
「部屋ごとエレベーター」は、
大人作品の「黄金仮面」
ルパンも使用しています。
使用されているトリックのことごとくが
乱歩愛用手段なのです。
いいのか!?乱歩に怒られないのか?

〔乱歩に怒られないのか?〕
本作品は1952年に雑誌「少年クラブ」に
連載されていました。
乱歩がこのとき執筆していたのは
「怪奇四十面相」
両者ともジュヴナイルに
力を入れていた時期なのです。
人気作品の「名称」を使用されて、
乱歩は怒らなかったのか?

横溝正史と江戸川乱歩は、
単なる同業者や友人という枠を超えた
生涯の親友であり、
恩人どうしの間柄でした。
大正末期から昭和初期にかけて、
横溝は博文館の雑誌「新青年」の
編集長を務めており、
作家・江戸川乱歩の
「よき理解者」兼「原稿の催促役」
兼「名参謀」として、
乱歩の執筆活動を陰で支え続けました。
また、乱歩は横溝に対して
格別の親愛の情を抱いており、
横溝が自身のアイデアや趣向、設定を
作品に用いることに対して
非常に寛大でした
(大人向け探偵小説でも、
乱歩作品へのオマージュや似た趣向は
数多く見られます)。

「少年探偵団」という名称についても、
事前の会話や書簡で
「乱歩、今度アレ貸してよ」
「いいよ、そのかわり
次は正ちゃんのアレ使わせてよ」
といったやり取りがあったか、
あるいは
「正ちゃん、どうぞ使ってよ」という
阿吽の呼吸・了解のもとに
使用されていたことは
間違いなさそうです。
名称の「流用」ではなく、
ジャンルの「共有」と見るべきなのです。

〔おわりに〕
本作品「金色の魔術師」は、
当時の読者層(小中学生)から
大人気誌の看板作品として
熱狂的に迎え入れられたと
いわれています。
「乱歩流トリック」という
当時の子どもたちが
最もワクワクする要素が
全編に詰め込まれていることに加え、
戦後のニュー・ヒーロー・金田一耕助が
登場するのですから
当然といえば当然です。

さらに本作品は昭和50年代の
「横溝正史ブーム」の際に
再評価されることになります。
角川文庫から本作品が
文庫化(昭和54年)された際、
昭和30〜40年代生まれの
新しいファンや
ミステリ読者の手に渡り、
乱歩の少年探偵団とは一味違う、
横溝らしい毒気と本格トリックが効いた
名作として、
大人のミステリファンからも
愛読されるようになりました。
その味わいは、平成を越え、
令和の現代でも
色褪せてはいないのです。
ぜひご賞味ください。

(2021.7.30)

〔娘のつくった動画もよろしく〕
こちらもどうぞ!

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(2026.8.12)

〔追記〕
角川文庫「金色の魔術師」が
ついに復刊しました。
内容は同じであるにもかかわらず、
またしても購入してしまいました。
表紙はまったく同じです。

(2022.11.7)

〔「横溝正史少年小説
  コレクション②迷宮の扉」〕

仮面城
金色の魔術師
迷宮の扉
灯台島の怪
黄金の花びら
 巻末資料
 編者解説

〔関連記事:横溝ジュヴナイル〕

「深夜の魔術師」
「蠟面博士」
「怪人魔人」

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〔横溝正史少年小説コレクション〕

おどろおどろしい世界への入り口
popoo20051によるPixabayからの画像

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