それぞれの結婚から見えてくるのは
「自負と偏見」
(オースティン/小山太一訳)新潮文庫
ビングリーに想いを寄せる
姉・ジェーンの恋路の邪魔をした
ダーシーに、
エリザベスは言いようのない
怒りを感じる。
そうした中でダーシーから
求婚されたエリザベスは、
言葉の端々に表れる
格下の家柄への高慢な態度に
反感を覚え…。
イギリスの作家
ジェイン・オースティンによる
傑作長編小説です。
読もう読もうと思っていながら、
「恋愛小説」であるために
躊躇していました。
読んでみたら面白さのあまり、
全630頁、駆け抜けるように
読んでしまいました。
【主要登場人物】
エリザベス・ベネット
…ベネット家五人姉妹次女。
知性があり勝ち気な性格。
フィッツウィリアム・ダーシー
…容姿端麗な資産家。
気難しく誇り高い。
ジェーン・ベネット
…ベネット家長女。性格温厚の美女。
ミスター・ビングリー
…独身の資産家。
誠実で人当たりが良い。
リディア・ベネット
…ベネット家五女。
長身の美女だが無教養。
破廉恥な事件を起こす。
ミスター・ウイッカム
…色男青年士官。
ミスター・コリンズ
…ベネット家の親類で遺産相続人。
シャーロット・ルーカス
…不器量のため独身だったが、
コリンズと結婚。
何も考えずに読めば、
ただの恋愛小説です。
主人公の女性が、
最悪の初対面を果たした男性の魅力に
少しずつ気づき、
次第に恋愛感情が生まれ、
困難を乗り越え結ばれるという、
現代のトレンディドラマにも
ありがちな展開であり、
それらの源流ともいえる作品として
捉えることができます。
しかし、登場人物それぞれの
恋愛と結婚(本作品には4つの結婚が
描かれている)を見たとき、
そこには女性の生き方についての
当時の状況が
しっかりと刻み込まれています。
本作品における結婚事例①
シャーロットとコリンズ
コリンズは巧言令色で杓子定規的性格。
人間としての魅力は
乏しいと言わざるを得ません。
知的な女性・シャーロットは
なぜそんなコリンズと結婚したか?
生活のためです。
生きるためなのです。
学歴があり間違いのない就職ができれば
一人でも生きていける
現代日本とは異なり、
金のある男性と結婚しなければ、
貴族階級の女性は
生きていくことはできないのです。
現代の尺度で
「もっと違った生き方がある」
「打算的だ」などと批判することは
適切でありません。
この時代の
したたかな生き方の一つなのです。
本作品における結婚事例②
ウイッカムとリディア
借金がかさんで夜逃げを
しようとしていたウイッカムと、
男漁りをしていたリディアの仲が
駆け落ちに発展します。
若い馬鹿な男女の
駆け落ちに過ぎないのですが、
当時の英国からすれば
一家の名誉に関わる大スキャンダル。
放置すれば残り4人の姉の結婚にも
差し障るのですから
問題の大きさがうかがえます。
この危機を救ったのはダーシー。
ウイッカムに金銭と職を与え、
リディアと正式に結婚させ、
体裁を整えます(ウイッカムには
結婚の意思がなかった)。
女が男にうかつに身をまかせることは
致命的だったのです。
それも当時の英国における
女性の生きにくさの一つでしょう。
本作品における結婚事例③
ジェーンとビングリー
好青年と美女。
お似合いの二人なのですが、
ダーシーがその中を妨害した
理由の一つは「身分の不釣り合い」。
家柄の差に加え、
三女以下の三人の妹と
母親の無教養ぶりが
ビングリーにとって不適切と
判断したゆえのことでした。
身分差といっても
貴族と平民ではありません。
同じ貴族内での細かな階級の違いが
結婚に大きく影響していたのですから
驚きです。
本作品における結婚事例④
エリザベスとダーシー
したがって、
この二人の間にはそれ以上の
「階級差」が存在します。
だからこそ、この二人の結婚成就は
当時のイギリス社会では
画期的なことであり、
小説の要素となり得たのでしょう。
それぞれの結婚から見えてくるのは、
階級社会において
階級に翻弄される
若い女性の生き方です。
オースティンが描きたかったのは
純粋な二人の恋愛などではなく、
18世紀末における英国社会での
女性の在り方であり、
その問題点を浮き彫りにすること
だったのかもしれません。
※当時の英国社会の状況について
知らなければ、十分な理解が
難しい作品だと感じます。
もう少し勉強してから
再度読み返したいと思います。
(2021.8.17)
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