どこかで読んだような気がしてなりませんでしたが…
「 怪盗どくろ指紋 」(横溝正史)
(「横溝正史少年小説
コレクション③夜光怪人」)
「怪盗どくろ指紋」(横溝正史)
(「仮面城」)角川文庫
警察の手が回り、
サーカスの舞台から大胆にも
逃亡する栗生道之助。
彼は今世間を騒がせている
怪盗どくろ指紋だというのだ。
「どくろ指紋」とは
三重渦巻きの特殊な指紋を
名刺代わりに遺す怪盗。
だが、道之助と接触した
美穂子は…。
由利・三津木コンビが活躍する
横溝正史のジュヴナイル短篇です。
大人物の作品同様、
由利先生の切れ味鋭い推理(というか
今回はだまし討ちのような…)が光る
好作品です。
【主要登場人物】
栗生道之助
…三重渦巻きの指紋を持つ。
花形サーカス団員。
宗像美穂子
…逃亡中の道之助と接触。
自宅で道之助によく似た
写真を見つける。
宗像禎輔
…大学教授。道之助の行方を捜す。
志岐英三
…禎輔の助手。
怪盗どくろ指紋
…正体不明の怪盗。
三重渦巻き指紋を残す。
由利麟太郎…私立探偵。
三津木俊助…新日報社記者。
等々力警部…警視庁警部。
本作品の読みどころ①
特殊な指紋の存在感
主役はやはり「三重渦巻き指紋」
そのものです。
「一本の指のなかに、
三つのうずまきがまいている」
「二つのうずまきが左右にならび、その
下に第三のうずまきがついている」
「まるでどくろががはをむきだして、
あざ笑っているように見える」と
丁寧な説明がなされた上で、
挿絵まで添えられています
(しかし歯もなければ
笑っているようにも見えない、
ムンクの叫びのようにしか見えない)。
主役級の存在感です。
本作品の読みどころ②
横溝得意の美少年
戦前の横溝作品によく見られる
「美少年」の登場です。
栗生道之助は「十七、八歳、それこそ
蠟人形のように美しい少年」なのです。
しかも警察に追われて逃亡中なのに、
冷静で爽やか、
紳士的な好青年なのです。
本作品の読みどころ③
切れ味鋭い由利先生
例によって由利先生が
名推理を炸裂させます。
道之助が怪盗どくろ指紋でないことの
証明は万全です。
しかし真犯人を言い当てるのですが、
そちらはほとんど直感、
証拠物件については
透視能力を働かせたとしか
思えないような発見のしかたです。
まあ、これが由利先生の
キャラクターなのですから、
文句を言ってはいけません。
さて、問題は「三重渦巻き指紋」です。
どこかで読んだような
気がしてなりませんでした。
40年前に本作品を読んだ記憶とは別に、
何かで読んでいたはず…、と思い
捜索したら、ありました。
江戸川乱歩の「悪魔の紋章」です。
再読していませんので
細部は忘れましたが、この作品にも
「三重渦巻き指紋」が登場し、
それを他人に使用されて
罪をなすりつけられるという
エピソードが筋書きの骨格に
なっているはずです。
しかも登場人物の名前に
同じ「宗像博士」まで見られます。
乱歩「悪魔の紋章」は
昭和12年連載開始、
本作品は昭和15年発表、
三重渦巻き指紋は
乱歩のアイディアであることは
間違いなさそうです。
同じ多作家の横溝と乱歩です。
似たネタは探せば山ほど見つかります。
お互い打ち合わせて
貸し借りしていた可能性もあります。
要は面白ければいいのです。
「怪盗どくろ指紋」と「悪魔の紋章」、
合わせて読んで楽しみましょう。
(2021.8.20)
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