旧版も捨てがたい魅力があるのです
現在存命中の作家であれば、
同じ作品が複数の出版社から
刊行されているということは
あまりありません。
でも、すでに
鬼籍に入っている作家の場合、
著作権保護期間が過ぎている関係で、
いくつかの出版社から
同じ作品が出されています。
特に多いものでは、
漱石の「坊っちゃん」があげられます。
新潮文庫、角川文庫、角川つばさ文庫、
岩波文庫、集英社文庫、
講談社青い鳥文庫、ちくま文庫、等々
さまざまあります。
そこまで豊富ではないにせよ、
明治の文豪の場合、
一つの作品がいくつかの文庫本と
なっているケースが多いのです。
さて、今日取り上げる
志賀直哉の文庫本ですが、
実はあまり多くはありません。
角川文庫、集英社文庫から
出版されているのは短編集1冊のみ。
岩波文庫は「小僧の神様」と
「暗夜行路」以外が絶版中。
なぜかちくま文庫は手を出してません。
となると、
新潮文庫を選択するのがベストです。
その新潮文庫ですが、
私は二通り所有しています。
まずは現在流通している版。
熊谷守一の装丁画を使用した表紙が
美しく、かつ全四冊統一感があります。
中身が読めればいいじゃないかと
思われるかもしれませんが、
表紙は大切です。
本というのは、
表紙とともにあるのです。
表紙が中身を表現していなかったり、
アイキャッチできないもので
あったならば、
テキストとして書かれてある内容が
いくら素晴らしくとも、
本としての魅力は半減すると考えます。
そして、新潮文庫はこのところ、
表紙を一新する際、
活字も大きいものに組み替え、
改版の上、出版しています。
値段が高くなるものの、
非常に読みやすく、
ありがたく感じています。
若い頃は何とも思わなかったのですが、
最近細かい字が読みづらく、
活字の大型化は大歓迎です。
しかしながら、
旧版も捨てがたい魅力があるのです。
著者自身の写真を使用した、
これまた統一感のある表紙が
何ともいえません。
著者の人柄が滲み出てくるような
(実際は癇癪持ちだったのですが)、
独特の雰囲気を持った表紙なのです。
しかも「万暦赤絵・灰色の月」だけは、
新版へ切り替わることなく
絶版となってしまったため、
他の五冊を処分することもためらわれ、
結果、二通り
書棚に並ぶことになった次第です。
では、新潮文庫の旧版六冊で、
志賀直哉の作品すべてを
網羅しているかというと、
そうではありません。
収録されていない作品が
まだあるのです。
岩波文庫の絶版中のものに、
新潮文庫に
収録されていないものがあれば、
中古本を探して
購入することを考えています。
志賀直哉は明治の文豪の中では
かなり長生きした作家であり、
著作権保護期間が終了していません
(終了は2041年)。
したがって青空文庫に登場するのは
まだまだ先のことです。
なんとか一編でも多く、
作品に触れたいと思っています。
(2021.9.17)
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