唯一の手がかりはリルケの「マルテの手記」にある
「名もなき夜のために」(安部公房)
(「夢の逃亡」)新潮文庫
夜…消極的に、
単に力を奪い去られたような
疲労ではなくて、
疲れというものが物質のように
筋肉の隙間などに
浸み込んで来るのが
感じられる晩など、
とくに空腹のあまり
体を蝦のように曲げて
必要以上に胃の部分を
圧縮しなければ…。
本作品についても
粗筋を書き上げることを断念し、
冒頭の一節を
抜き書きしてしまいました。
難解です。
あまりにも難解です。
そして未完の作品です。
全編には1から6の番号が
振られてはいるものの、それらに
どのような繋がりがあるのかさえ
わかりません。しかしなぜか
その雰囲気に酔うような感覚を
覚えてしまう作品でもあるのです。
「1」
①「僕」の発作について、
恐怖と区別できない歓喜について、
「僕」の見る幻覚について、
変化のない夜の繰り返しについて
②電車の中で過ごす夜について、
マルテの手記について、
気管支炎での入院と
そこで出会った小説家について
③リルケの「態度」について、
「僕」の部屋の壁について
④「マルテの手記」の在り方について、
「マルテの手記」を
書店で万引きした経緯について
⑤再び電車で過ごす夜と
そこで出会った
ハンチング帽の男について、
少女に電車の席を
奪われたことについて
⑥友情について
⑦「僕」の意識について、
ホームで出会った男について
⑧学生Tについて、
買い物かごの少女について
最初の「1」を読みながら
私がとったメモです。
全編にわたって行うつもりでしたが、
「1」のみで止めました。
全体の1/6の部分でさえ、
このようにとりとめも脈絡もない
事柄の連続なのです。
それは空想であり、
思考であり、
虚構なのでしょうが、
すべては読み手の理解を
激しく拒絶するかのように
書き連ねられているのです。
唯一の手がかりはリルケの
「マルテの手記」にあるのでしょう。
「本当に書き始める前に
僕の〈リルケ論〉が必要なのだ。
僕の考えが正しければ
それは良いことだろうし、
間違っていればその在り方を
書くのが良いことだろう」。
本作品の一節です。
さらには本書の「あとがき」の中にも
「多少の註釈が
必要かと思われるのは、
リルケの意味などについてだろう。
リルケというのは私にとって
第二次世界大戦の
シンボルだったのだ」とあります。
不幸なことに「マルテの手記」については
私は学生時代に読んだきりで、
本も紛失しています。
機会を捉えて再読したいと思います。
再読したところで、
初期の安部作品を理解できるかどうか、
まったく見通しが持てないのですが、
少しでも近づきたいと思います。
※「夢の逃亡」収録作品一覧
「牧草」
「異端者の告発」
「名もなき夜のために」
「虚構」
「薄明の彷徨」
「夢の逃亡」
「唖むすめ」
(2021.9.27)
【リルケ「マルテの手記」】
【今日のさらにお薦め3作品】
①家族とは何かを考える
「幸福な食卓」(瀬尾まいこ)
②最近続編が出ました
「ぼくはイエローでホワイトで
ちょっとブルー」
(ブレイディみかこ)
③世の中を考える
「勇気ってなんだろう」(江川紹子)
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