「ビーナスの星」(横溝正史)

新日報社入社前のヤング三津木の探偵譚

「ビーナスの星」(横溝正史)
(「横溝正史少年小説
  コレクション④青髪鬼」)柏書房

「ビーナスの星」(横溝正史)
(「仮面城」)角川文庫

K大学生・三津木俊介は、
電車の中で怪しい男に
つきまとわれている
少女を助ける。しかし少女は
三津木と別れたあと、
謎のピエロに襲われ怪我をする。
翌日その現場を調べた三津木は、
半分に引き裂かれた
少女のマフラーを見つけ…。

昭和11年という
比較的早い時期に発表された、
横溝正史ジュヴナイル短篇です。

【主要登場人物】
瀬川由美子
…電車の中で俊助に助けを求めた少女。
瀬川健一
…由美子の兄。発明家。
 両親死去、妹と二人暮らし。
石狩のトラ
…由美子を襲ったピエロ。
 左足が義足の凶悪犯。
木下刑事
…警視庁刑事。
三津木俊助
…K大学生。電車内で由美子と出会う。

本作品の読みどころ①
ヤング三津木俊助の登場

由利麟太郎の片腕となって活躍している
敏腕記者探偵・三津木俊助が、
なんとここでは大学生として登場し、
事件を解決しています。
新日報社入社前の
ヤング三津木の探偵譚なのです。
健気な少女・由美子を救うナイト役は、
やはり大学生くらいの
優しいお兄さんタイプが
絵になるのでしょう。

本作品の読みどころ②
時価数億円の宝石探し

由美子が狙われる理由は、
亡くなった叔母から
時価数億円といわれる宝石
「ビーナスの星」を
贈られたからなのです。
しかしその宝石は、
直接渡されておらず、
何かに隠して贈られたらしいのです。
宝石の在処を探し出すのは
探偵の卵・三津木か、
それとも凶悪犯か?

本作品の読みどころ③
少女を狙う悪役・少女を守る青年探偵

それ故に
少女が悪者から狙われるのです。
由美子は兄・健一と二人暮らしで貧乏。
宝石があれば、
兄の研究が継続できるのです。
だからこそ
青年探偵が少女を守るのです。

さて、こうした読みどころ
「若い大学生が探偵役」
「不幸な兄妹が
実は莫大な遺産を受け取っていた」
「悪者が少女(妹)を狙って暗躍」という
本作品の読みどころは、
実は横溝の得意パターンです。
ここまで取り上げた作品の中でも、
「謎のルビー」「片耳の男」「バラの怪盗」
「蛍の光事件」などが該当します。
これはおそらく横溝が、
読者として男の子だけでなく
女の子をも想定して書き上げた
結果なのではないかと思うのです
(同じ推理ジュヴナイルでも、
乱歩の場合は女の子の読者を
意識したような作品は
わずかしかありません)。

男の子が読んでも女の子が読んでも
面白い横溝ジュヴナイル。
大人の貴方もいかがですか。

(2021.10.10)

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