短いながらも小気味よく繰り広げられる探偵譚
「謎の五十銭銀貨」 (横溝正史)
(「横溝正史少年小説
コレクション⑦南海囚人塔」)柏書房
「花びらの秘密」(横溝正史)
(「横溝正史少年小説
コレクション④青髪鬼」)柏書房
「謎の五十銭銀貨」「花びらの秘密」
(横溝正史)(「夜光怪人」)角川文庫
小説家・駒井啓吉は
一個の五十銭銀貨を
マスコットにしていた。
ある易者から釣り銭として
受け取ったものだったが、
それは二つに割れ、中に
暗号文が隠されてあったのだ。
それが雑誌で公表されると、
怪しい男が
啓吉を訪ねてきて…。
「謎の五十銭銀貨」
【主要登場人物】
駒井啓吉
…小説家。
謎の五十銭銀貨がマスコット。
駒井不二雄
…小学生。啓吉の甥。
香山由紀子
…啓吉のファンの少女。
駒井家の近所に住む。
山田進(小宮三郎)
…五十銭銀貨を盗み、殺される。
小宮譲治
…三郎の亡くなった兄。宝石泥棒。
天運堂春斎
…怪しい易者。
等々力警部…警視庁警部。
横溝正史のジュヴナイル短篇二作です。
短いながらも
小気味よく探偵譚が繰り広げられます。
ある夜、
目を覚ました美絵子は、隣室の
怪しげな物音に気づくが、
「動くな」という警告文が
目に入り、沈黙する。
翌朝調べても、
何も盗まれたものはなかった。
美絵子は警告文の片隅に
犯人の特徴的な指紋があることを
見つける…。
「花びらの秘密」
【主要登場人物】
藤倉美絵子
…父母はすでに他界。
祖父と暮らす少女。
おじいさん(老将軍)
…美絵子の祖父。
藤倉博士
…美絵子の叔父。事故死。
防衛庁のロケット技師。
青木先生
…美絵子の婦人家庭教師。
宇津木俊策
…私立探偵。老将軍が信頼を置く。
緑川三平
…宇津木探偵事務所所属。
マドロス次郎
…S国スパイ。
蛭峰ドクトル
…T国のスパイ。
二作品共通の読みどころ①
子ども向け暗号の登場
どちらも暗号文が登場します。
「謎の五十銭銀貨」にいたっては、
硬貨が二つに割れて
中に暗号文が隠されているという
乱歩の「二銭銅貨」そのものです。
暗号は決して難しいものではなく、
読み手の少年少女がちょっと工夫すれば
わかる程度のものです。
だからこそわくわくさせるのでしょう。
二作品共通の読みどころ②
どちらも隠し場所は○○○
偶然にも、どちらも隠し場所は
○○○の中。
確かにここならどんな風にも
隠せるので便利なのでしょう。
家から持ち出すこともなければ
捨てることもめったに
ないでしょうからなおさらです。
二作品共通の読みどころ③
何とも間抜けな泥棒
両作品とも、泥棒が侵入して
盗み出そうとするのですが、
もちろん失敗に終わります。
工夫も何もなく、
ただただ普通に侵入して、失敗する。
二十面相に叱られそうな体たらくです。
短篇作品であるため仕方ありません。
事件をスピード解決させるには、
泥棒は間抜けであらねばならぬのです。
両者の相違点はどこか?
「五十銭」は大人の啓吉が
探偵役となっているため、
少年の不二雄にほとんど
活躍の場面がないのに対し、
「花びら」では美絵子が大活躍し、
事件解決に貢献するという
いかにもジュヴナイル的な
展開であるということ、
そして狙われているのが「五十銭」では
宝石ダイヤモンドであるのに対し、
「花びら」では軍事機密ということ
ぐらいです。
その違いは、
「五十銭」は昭和25年、
「花びら」は昭和11年という
執筆時期による違いなのです。
時局を考えたとき、
横溝もスパイ小説を
書かざるを得なかったのでしょう。
いずれにしても横溝らしさが
あふれ出ている短編二編です。
来年は横溝正史生誕120年を迎えます。
横溝ジュヴナイルを堪能し、
来年に備えましょう。
※柏書房
「横溝正史少年小説コレクション
⑦南海囚人塔」収録作品一覧
南海の太陽児
南海囚人塔
黒薔薇荘の秘密
謎の五十銭銀貨
悪魔の画像
あかずの間
少年探偵長 海野十三
※柏書房
「横溝正史少年小説コレクション
④青髪鬼」収録作品一覧
青髪鬼
真珠塔
獣人魔島
ビーナスの星
花びらの秘密
『蛍の光』事件
片耳の男
謎のルビー
皇帝の燭台(未完作品)
黒衣の道化師(未完作品)
(2021.10.17)
〔追記〕
角川文庫版「夜光怪人」が、
ついに復刊となりました。
旧版も所有しているのですが、
復刻版も購入してしまいました。
表紙は変更がないのですが、
色艶が格段によくなりました。
(2022.11.27)
【今日のさらにお薦め3作品】
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