「青髪鬼」(横溝正史)

最後まで緊張感が切れることがありません。

「青髪鬼」(横溝正史)
(「青髪鬼」)角川文庫

「青髪鬼」(横溝正史)
(「横溝正史少年小説
  コレクション④青髪鬼」)柏書房

生きながらに
死亡広告を出された三人。
宝石王・古家万造、
理学博士・神崎省吾、そして
十三歳の少女・月丘ひとみ。
悪戯かと思われたが、
謎の怪人・青髪鬼によって
古家万造の秘書が殺害される。
三津木俊助と御子柴進が
その謎を追う…。

横溝正史ジュヴナイル作品です。
青髪鬼という化け物キャラと、
三津木俊助という
おなじみの名探偵役の登場は、
ジュヴナイルとしては
当然のことながら、
作品の構造は単純ではありません。
横溝らしい、かなり手の込んだ
筋書きとなっています。

【「青髪鬼」事件メモ】
〔新日報社関係者〕
三津木俊助…新日報社記者。
御子柴進…探偵小僧。新日報社給仕。
山崎…新日報社編集長。
花井樽井…新日報社記者。
河野…新日報社三重県支局員。
〔事件関係者〕
古家万造
…宝石王。五十歳。
 死亡広告を出された一人。
佐伯恭助
…古家万造の秘書。
 青髪鬼に殺害される。
神崎省吾
…理学博士。四十五歳。
 死亡広告を出された一人。
月丘ひとみ
…十三歳の少女。
 死亡広告を出される。
月丘謙三
…ひとみの父親。すでに死亡。
月丘秋子
…ひとみの祖母。ひとみを養っている。
鬼塚三平
…古家・神崎・謙三のかつての仲間。
了海…三重県太平寺住職。
了仙…太平寺僧侶。
〔謎の人物たち〕
青髪鬼
…青い髪の怪人。復讐のため、
 三人を殺害しようと企む。
白蠟仮面
…怪盗。変装の天才。
 「大宝窟」の秘密を奪おうとする。
「影の人」
…水攻めにあった御子柴とひとみを
 救出した謎の人物。
〔事件の概要〕
①新聞に古家・神崎・月丘ひとみの
 死亡広告が出される。
②佐伯恭助、青髪鬼に殺害される。
③古家万造、青髪鬼に襲撃される。
④白蠟仮面、俊助に変装し、
 新日報社に侵入、
 佐伯の託した書類を強奪。
⑤古家邸に潜んでいた神崎博士、
 御子柴を拘束し、逃走。
⑥白蠟仮面、ひとみを誘拐。
⑦白蠟仮面と対峙していた神崎博士、
 青髪鬼に銃撃される。
⑧白蠟仮面と青髪鬼、銃撃戦。
⑨白蠟仮面、御子柴、ひとみの三人、
 青髪鬼の罠にはまり、
 地下室に監禁の上、水攻め。
⑩「影の人」、三人を救出。
⑪三津木、御子柴、ひとみの三人、
 「大宝窟」のある三重県へ。
 青髪鬼の策略により、
 ひとみ行方不明に。
⑫白蠟仮面、太平寺宿泊中の
 三津木・御子柴から
 「大宝窟」の暗号強奪(実は贋物)。
⑬三津木、御子柴、「影の人」、
 洞窟を探索、
 重傷を負った鬼塚三平を発見。
⑭白蠟仮面と青髪鬼、再び銃撃戦。
⑮ひとみ救出、青髪鬼死亡、
 逃走した白蠟仮面、
 事故により行方不明。大団円。

本作品の味わいどころ①
怪人たちの超絶バトルロワイヤル

ジュヴナイル・ミステリの多くは、
怪盗対名探偵という基本スタイルです。
特に乱歩作品などは
二十面相対明智小五郎という
対決構図が鮮明です。
しかし本作品において、
探偵役の存在感はかなり希薄です。
頼りの由利先生は登場せず、
警察も等々力警部が出馬しないためか
捜査の動きがやたらと鈍いのです。
その一方で、怪人たちが
強烈な存在感を発揮しています。
正体不明の悪人・青髪鬼の
復讐劇かと思えば、
怪盗・白蠟仮面が参戦し、
何やら秘密のお宝を狙いはじめます。
それになぜか命を狙われている
神崎博士まで奇妙な行動を示します。
さらに、二人の怪人がひとみを狙えば、
「影の人」が窮地を救います
(この「影の人」は
どうやら善人らしいのですが)。
それぞれの狙いはどこにあるのか、
最後まで緊張感が
切れることがありません。
この、怪人たちの
超絶バトルロワイヤルこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
御子柴少年と少女ひとみの大冒険

前述したように、
探偵役の存在感が希薄です。
三津木俊助一人では、
これらの怪人たちの暗躍は、
やや荷が重かったのでしょうか。
ところが、一人気を吐いているのが
探偵小僧・御子柴少年です。
新日報社を訪れた佐伯を尾行する。
青髪鬼と最初に遭遇する。
白蠟仮面からひとみを守り抜く。
八面六臂の大活躍を見せるのです。
少年だけではありません、
少女も存在感を見せつけるのです。
ひとみも次々に
悪人に襲われるのですが、
それでも気丈に振る舞い、
冒険に加わります。
少年少女の大冒険こそ、
ジュヴナイルの神髄であり、
最後まで緊張感が
切れることがありません。
この、御子柴少年と少女ひとみの
大冒険こそ、本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

ところで横溝ジュヴナイルには、
怪盗・白蠟仮面が主役となる作品
「白蠟仮面」もあります。
「白蠟仮面」は1953年2月から
雑誌「野球少年」に連載開始、
本作品は「大宝窟」というタイトルで
「少年クラブ」に同年1月から
連載が始まっています。
横溝はこの年、二つの雑誌に
白蠟仮面の作品を
同時に連載していたことになります。
実は「白蠟仮面」では、
いいところのまったくなかった
御子柴少年ですが、本作品では
その失地挽回を果たすかのような
活躍を見せているのです。

「白蠟仮面」

本作品の味わいどころ③
次から次へと連続するサスペンス

死亡広告から始まり、
青髪鬼や白蠟仮面の登場、
不気味な巨大グモ、
白蠟仮面の変装術、
地下倉庫への監禁と水攻め、
モーターボートによる水上追跡、
秘密の暗号文、
蜘蛛の巣洞窟、
人造ダイヤモンド等々、
子どもたちの興味を引きつける
アイテムが次から次へと現れます。
何という連続するサスペンス。
最後まで緊張感が
切れることがありません。
この、次から次へと連続する
サスペンスこそ、本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

やはり横溝ジュヴナイルは面白い。
今時の子どもが読んでも
あまり引きつけられるものは
ないのかもしれませんが、
かつて子どもだった大人のあなたなら、
ジュヴナイルの面白さを
十分に味わえるはずです。
ぜひご一読を。

※例によって
 「横溝正史少年小説コレクション」に
 収録されているのは原典版、
 角川文庫版は
 山村正夫編集版となります。
 両者は大きな違いこそないものの、
 原典版の敬体の文章が、
 山村版では常体となっています。

(2021.10.17)

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(2025.5.8)

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