初心者を圧倒する海外SFのスケールの大きさ
「幼年期の終わり」
(クラーク/池田真紀子訳)
光文社古典新訳文庫

世界の主要都市上空に現れた
巨大な宇宙船は、
武力を行使することなく
人類を統治する。
オーヴァーロードと呼ばれる
彼らは、
世界から国境を取り除き、
人類に平和と安定を供与する。
しかし彼らはその姿を
見せることはなかった…。
映画で有名な「2001年宇宙の旅」の
原作者・アーサー・C・クラークの
古典的名作SFです。
実は私は日本のSF作品は
ある程度読んでいるのですが、
海外のSFについては、
この年になるまで
まともに読んだことがありません。
先日読んだハインラインの
「夏への扉」がはじめてであり、
本作がまだ2作目です。
読んで驚きました。
海外のSF作品のスケールの大きさに。
第一部
「地球とオーヴァーロードたち」から
圧巻です。
宇宙人が襲来して
地球人を支配する、というと、
宇宙人が圧倒的な武力を駆使して
人類を恐怖に陥れるというのが
一般的なイメージだと思います。
しかし、武力を用いずに
高度な科学力であることを理解させる。
具体的要求もなく詐取もない。
彼らは姿さえ見せずに
ほぼ完璧に統治する。
地球人は支配されているという
感覚を持たず、むしろ状況としては
平和で繁栄がもたらされている。
このような画期的な「地球侵略」が、
約70年前の
1953年に描かれていたとは。
第一部の50年後の世界である
第二部「黄金期」に入り、
彼らの姿と意志が
明確にされていきます。
その異様な姿と
それに比してフレンドリーな様相、
そして語られはじめる彼らの「事情」は、
物語世界の持つ雰囲気を
一変させてしまうのですが、
第二部全体が次の第三部の
伏線と考えるべきでしょう。
そして第三部「最後の世代」で、
「人類の新たな進化」と「文明の終焉」
(人類滅亡とはやや異なる)を迎えます。
頁をめくる手を止められず、
一気に読み終えてしまいました。
読み終えて、まだ自分の受けた感銘を
整理できずにいる次第です。
希望があるように見えて
まったく救いのない結末、
結局は滅びのために用意されていた
「穏やかな支配」、
科学を超越したところにある神霊世界、
核よりも巨大な霊的エネルギー、
支配者もまた支配されているという
宇宙の構造、
アインシュタインの相対性理論を
的確に組み込んだ科学考証、
これらが私の身体の中で
奔流のように逆巻いています。
読書の秋もいよいよ深まってきました。
本作品を、私のように
海外SF初心者の方々にお薦めします。
※実は以前から海外SFを
読もうと思っていたのですが、
手が回りませんでした。
レムの「ソラリス」、
ブラッドベリの「華氏451度」、
ホーガンの「星を継ぐもの」などに
注目しています。
なるべく早いうちに
読みたいと思っています。
(2021.11.1)

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