「横溝正史少年小説コレクション⑤白蠟仮面」(横溝正史)

横溝ジュヴナイルは、多様性をもった作品群

「横溝正史
  少年小説コレクション⑤白蠟仮面」
(横溝正史)柏書房

怪しげな石膏像を積んだ
トラックの荷からこぼれ落ちた
一粒のダイヤモンド。
それを拾い上げた御子柴少年は
トラックを追跡する。
たどり着いた屋敷を覗くと、
なんと石膏像が動き出した。
その正体は神出鬼没の怪盗・
百蠟仮面だった…。
「白蠟仮面」

とうとう第5巻を読み終えました。
横溝正史ジュヴナイル作品を集めた
「横溝正史少年小説コレクション」。
第5巻には、
怪人と対峙する御子柴少年の
活躍めざましい長編4篇、
少女が前面に出ている
短編5篇が収録されています。
どれも横溝らしい面白さ満載です。

事故を起こしたトラックの
荷台の木箱の中から、
死体を蠟で固めた
人形が出てくる。
トラックから逃げ出した
怪しい老人を、
探偵小僧・御子柴少年は
尾行する。
たどり着いたアトリエの中で、
御子柴少年は怪老人・蠟面博士と
対峙する…。
「蠟面博士」

「白蠟仮面」は
事件・冒険・対決・逃走・大活劇と、
ありとあらゆるものを詰め込んだ、
いかにもジュヴナイルらしい
傑作となっています。
「蠟面博士」は旧角川文庫に
収録されたのが
山村正夫編集版であったのに対し、
本書収録は原典版。
金田一耕助ではなく三津木俊助
御子柴少年をサポートしています
(ろくにしていないのですが)。

東京に突如現れた風船魔人は、
はじめは馬を、
次は蠟人形を使って
空中浮遊の実験を行い、
市民を驚かせていた。
秘密を探ろうとした
御子柴少年は
一味に捕らえられてしまう。
風船魔人は、
次に御子柴少年を使って
実験するという…。
「風船魔人」

突如東京に現れた黄金人間。
全身が金色の金属でできていて、
拳銃の弾も
跳ね返す強度を持っていた。
怪人は夜道で
十六歳の少女を狙うが、
それは名字名前がともに
「イ」「ロ」「ハ」となっている
子ばかりだった。
御子柴少年のもとに…。
「黄金魔人」

ややSFがかった2篇の
「風船魔人」「黄金魔人」です。
「風船魔人」では水素よりも浮揚力のある
超気体が発明され、
「黄金魔人」では延性に優れ、
肌に密着しながら弾丸をはじく強度を
持つという超金属が産み出され、
物語を彩ります。
この手の超発明は、
戦時中の戦意高揚を意図して
挿入されることがジ
ュヴナイルでは多いのですが、
両篇とも戦後の作品であり、
純粋に横溝の趣味なのでしょう。
子ども向けのサーヴィス精神の
表れとみるべきです。

中学を出てすぐに働き始めた
眉子のもとに、
毎年五月十五日に
届けられる「贈り物」。
今年届いた金の時計が
ある日止まる。
眉子が裏蓋を開けてみると
そこには見知らぬ婦人の
写真が貼り付けてあった。
眉子はこの女性が
贈り主と考え…。
「動かぬ時計」

寄宿舎に、
幽霊が現れるという噂が立つ。
鏡子もまた夜中に
「バラが…、赤いバラが…」という
すすり泣くような声を聞く。
それは妙子の声に
よく似ていた。
妙子は鏡子の親友であり、
贈物のバラに仕組まれていた毒で
亡くなっていた…。
「バラの呪い」

「動かぬ時計」はメルヘンチック、
「バラの呪い」は
オカルトがかっているのですが、
どちらも少女を主人公に据えた、
読み手として
女の子を想定した作品です。
こういう傾向のジュヴナイル作品は、
乱歩には見当たらない、
横溝特有のものなのです。

夜中に目覚めた益美は、
得体の知れない魔物が、
カサカサと音を立てて
忍び寄る気配を感じる。
そして聞こえてくる口笛の音。
益美はやっとの思いで
部屋から飛び出す。
真夜中の口笛は、
益美の一家に不幸をもたらす
呪いであった…。
「真夜中の口笛」

誕生日パーティの余興として、
都下を騒がしている
「バラの怪盗」を演じた朱美は、
あろうことか家族の目の前で
本物のバラの怪盗に
誘拐されてしまう。
やがて届いた
朱美直筆の手紙には、
身代金の要求が。
それを見た従兄の史郎は…。
「バラの怪盗」

残り3篇も
女の子を読み手に据えた作品です。
これらは女の子が悪者から狙われます。
「真夜中の口笛」では
少女が叔父から命を狙われ、
「バラの怪盗」では
怪盗から誘拐されます。さらに
「廃屋の少女」では、
命を狙われる上に誘拐までされるという
恐怖の連続。
これを読んだ女の子たちは
さぞかし肝を冷やしたことでしょう。

千晶と弓雄の乗った軽気球は、
何ものかの狙撃によって
ロープが断ち切られ、
空中をさまよう。
さらには気球のガスが抜かれ、
森の中へと落下する。
運良く命は助かったものの、
千晶は悪党集団・黒手組の
虜となり、身代金を要求され…。
「廃屋の少女」

こうしてみると横溝ジュヴナイルは、
乱歩に見られない多様性をもった
作品群であることがわかります。
それはこの第5巻の
短篇作品群において
顕著に見られる特徴です。かつて
旧角川文庫に収録されていた際は、
余白の埋め草くらいにしか
考えていなかったのですが、
今読むとその立ち位置の貴重さに
驚かされます。
横溝の先見性を強く感じてしまいます。

まさかこの年になって
横溝ジュヴナイルを連続して
再読するとは思いませんでした。
これも柏書房の英断のおかげです。
あと2巻、
十分に愉しみたいと思います。

(2021.12.5)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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