「娘」たちの鮮烈な季節を描いた三作品
「百年文庫071 娘」ポプラ社

「片意地娘 ハイゼ」
若い船頭・アントニーノは、
町娘・ラウレラに想いを寄せる。
しかし彼女は彼の好意を
受け入れようとしない。
父に苦しめられた母を見て、
彼女は男が嫌いになったのだ。
沖へ出たころ、
彼は自分の感情に
結末をつけようと彼女を…。
百年文庫71巻のテーマは「娘」。
わかりやすいテーマです。
三篇すべてに十代の女性、
つまり「娘」が登場するのですから
(血縁関係としての「娘」ではなく、
あくまでも若い―おそらくは
十代―女性としての「娘」)。
でも、三人の「娘」は
それぞれ性格が異なります。
ハイゼの「片意地娘」ラウレラは、
その表題どおり常に片意地を張っている
かわいげのない娘でした。
それが若い船頭・アントニーノの
想いに触発され、その頑なな心を
次第に融かしていくのです。
「幽霊花婿 W.アーヴィング」
日が暮れてようやく
カッツェンエレンボーゲンの城に
花婿が到着する。
娘と花婿は一目で
お互いを愛し合うようになる。
しかし花婿の様子がおかしい。
花婿は「わたくしは死人です。
墓が待っているのです」と
言い残し、去っていく…。
アーヴィングの描く「娘」は
名家のお嬢様です。
貴族の花婿を迎え、
当たり前の結婚をする予定でしたが、
運命によって彼女は
生き方を変えざるを得なくなります。
しかしそれは素敵な変容です。
「ほれぐすり スタンダール」
有り金をすってしまった
青年将校・リエヴァンは、
とある家の戸口から逃げ出てきた
若い女性・レオノールを助け、
自分の下宿にかくまう。
リエヴァンは彼女の
逃避行の援助を申し出るが、
彼女の口から語られるいきさつに
彼は驚き…。
「ほれぐすり」の
レオノール(18~20歳)は恋に狂い、
道を踏み外し(かけ)た娘です。
つまらない曲馬師の男に惚れてしまい、
夫を裏切るのですから。
そしてその男が悪党であり、
自分を捨てて
他の女と逃げたことを知っても、
そして自分を悪党仲間に売ったことを
知っても、
なおその男のことを諦めきれず、
自分の命を救ってくれた好青年・
リエヴァンを愛することが
できないのです。
「馬鹿な女」と言い切ることは
簡単なのですが、
それが「ほれる」ということであり、
「若さ」ということなのかもしれません。
さて、
三篇とも「娘」が主人公である以上、
そこに描かれているのは「恋愛」です。
ハイゼの描いた「恋愛」は
爽やかさの漂うものですが、
アーヴィングのそれは
ミステリアスであり
ロマンティックであり
ユーモラスなものです。
そしてスタンダールの場合は
何ともいえない
やりきれなさでいっぱいです。
三人の作家たちの国籍は
それぞれドイツ、アメリカ、
フランスなのですが、
こうした描かれ方の違いは、
国民性による恋愛観の差なのか、
それぞれの作家個人の特質なのか、
浅学な私にはよくわかりませんが、
興味のあるところです。
作家三人のうち、
私が知っている名前は
「赤と黒」で有名な
スタンダールのみでした。
ドイツのハイゼは今や作品のほとんどが
忘れ去られているようなのですが、
調べてみるとノーベル賞作家
(ドイツ人作家初)でした。
またアーヴィングは、
「アメリカ文学の父」
「短篇小説の創始者」と呼ばれるなど、
アメリカ国内での
評価の高い作家なのでした。
三人の「娘」たちの
鮮烈な季節を描いた三作品は、
五十も半ばを過ぎた私にとっては
眩しすぎます。
だからこそ心に焼き付いて
離れそうにありません。
素敵な作品たちを
ぜひ味わってみてください。
(2021.12.15)

【今日のさらにお薦め3作品】
【関連記事:「娘」の物語】
【百年文庫はいかが】
【三人の作家の本】