そこにいるのはいったい誰なのか?
「あかずの間」(横溝正史)
(「横溝正史少年小説コレクション
⑦南海囚人塔」)柏書房
「あかずの間」(横溝正史)
(「姿なき怪人」)角川文庫
貧しい家庭から引き取られてきた
少女・由紀子は、
その家に何ともいえない
恐ろしさを感じていた。
あかずの間となっている土蔵に、
おばさんはいつも
食事を持って行っているのだ。
この家には
由紀子の知らない人間が
まだいるのか…。
旧角川文庫版「姿なき怪人」の
余白に収録された、
わずか15頁の短篇作品です。
横溝正史のジュヴナイルらしい、
いたいけな少女が主人公です。
【主要登場人物】
由紀子
…小学校3年生の少女。
家が貧しく引き取られる。
平田雷蔵
…由紀子を引き取った屋敷の主人。
月に二三度しか帰宅しない。
山下亀吉・梅子
…屋敷の使用人夫婦。
田村一彦
…あかずの間の秘密を探る大学生。
ミステリというよりは
ホラーの類いかもしれません。
あかずの間となっている土蔵には、
確かに誰かがいるらしい。
しかし主人と使用人夫婦、
そして自分のほかには誰もいないはず。
そこにいるのはいったい誰なのか?
横溝作品には、家人を監禁して
生きながらえさせている
(その多くは座敷牢)という設定は
いくつかあります。
確か「八つ墓村」「獄門島」
「夜光虫」などにあったはずです。
この土蔵の「あかずの間」も、
座敷牢であることは明白です。
梅子は「この家の守り神である白蛇様が
まつられている」と
由紀子を言いくるめるのですが、
もちろんそんなはずはありません。
大学生・一彦が登場し、
事件は一気に解決となるのですが、
土蔵の中には由紀子と同年代の少女が、
骨と皮ばかりの痩せこけた姿で
いたのでした。
さて、旧角川文庫版「姿なき怪人」には
巻末解説が付されておらず、
本作品の背景等については
知ることができませんでしたが、
調べてみると、
1957年に「なかよし」なる
子ども向け雑誌に
掲載されたとのことでした。
小学校3年生が主人公の物語ですので、
おそらくそうした年代を対象とした
読み物だったのでしょう。
ネットで検索したところ、
初出誌の画像が見つかりました。
高木清なる作家の
少女チックな挿絵が魅力的であり、
テキストのみの本書とは
雰囲気がまったく異なります。
まもなく発売される
「横溝正史少年小説コレクション」の
第7巻に、本作品が
収録されているようなのですが、
ぜひ初出誌の挿絵も
収録されていることを期待しています。
(2021.12.19)
〔追記〕
2022年1月1日に届いた
「横溝正史少年小説コレクション」
第7巻に、
やはり挿絵も収録されていました。
雰囲気は出ています。
※柏書房
「横溝正史少年小説コレクション
⑦南海囚人塔」収録作品一覧
南海の太陽児
南海囚人塔
黒薔薇荘の秘密
謎の五十銭銀貨
悪魔の画像
あかずの間
少年探偵長 海野十三
(2022.1.3)
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