「スタイルズ荘の怪事件」(クリスティ)

読み手に対して仕掛けられた数々の罠

「スタイルズ荘の怪事件」
(クリスティ/矢沢聖子訳)
 ハヤカワ文庫

スタイルズ荘で起きた殺人事件。
20年下の男と再婚した女主人が、
何者かに毒を盛られて
殺害されたのだ。
招待されていた「わたし」は
その死に疑問を抱き、
数年ぶりに再会した旧友に
捜査を依頼する。
旧友の名は
エルキュール・ポアロ…。

アガサ・クリスティの処女作であり、
当然ポアロの初登場作品となります。
「オリエント急行の殺人」
「そして誰もいなくなった」に続いて
読みました。
やはり面白すぎます。

【主要登場人物】
エミリー・イングルソープ
…スタイルズ荘女主人。毒殺される。
アルフレッド・イングルソープ
…エミリーの夫。妻との仲は良好。
ジョン・カヴェンディッシュ
…エミリーの義理の息子。
メアリー・カヴェンディッシュ
…ジョンの妻。
ローレンス・カヴェンディッシュ
…ジョンの弟。医学の心得あり。
エヴリン・ハワード
…エミリーの友人。
シンシア・マードック
…エミリーの旧友の娘。薬剤師。
バウアスタイン博士
…毒理学者。
ウィルキンズ
…エミリーの主治医。毒物の研究家。
ジェームズ・ジャップ
…スコットランドヤードの警部。
アーサー・ヘイスティングズ
…語り手。ジョンの招きに応じて
 スタイルズ荘を訪問する。
エルキュール・ポアロ
…私立探偵。

本作品の読みどころ①
事件の表面は地味、構造は複雑

次から次へと
殺人が行われるわけではありません。
殺害されるのは
女主人・エミリーだけです。
雪に閉ざされた急行列車の中での
事件ではありません。
舞台は富豪の邸宅です。
以前読んだクリスティの代表作二作と
比較すると
(他のミステリと比較しても)、
事件の表面的な部分は地味です。
それでいながら
「誰が殺したのか?」という
謎解きに徹し、
きわめて緻密かつ複雑な構造を持つ
作品となっています。

本作品の読みどころ②
際だった個性を発揮するポアロ

初登場でありながら、
本作ですでに異彩を放つ名探偵像が
確立しています。
小柄、緑の眼、卵型の頭、
ぴんと跳ね上がった口髭といった
外形的スタイルはもちろん、
強い自信家、清潔好き、
柔らかな物腰等、性格面を含め、
事件関係者との会話からの手がかりを
重視する捜査手法など、
際だった個性を与えられた探偵像は、
まるで後のシリーズ化を
すでにこの段階で画策していたかの
ようでもあります。

本作品の読みどころ③
読み手に対して仕掛けられた数々の罠

「毒殺」という単純な殺人であるものの、
医者、毒理学者、薬剤師、
医学の心得ありなど、
それを使える人間が
数多く存在するという人物配置からして
罠の匂いがプンプンと匂ってきます。
もっとも疑わしいAが犯人かと思えは、
それは早々と打ち消され、
怪しい行動をしているBかと思えば、
それは別件逮捕であり、
事件との関係が否定され、
ではやはりCだったかと
思っているうちに
意外にもDが捕らえられ、
これで本事件も動機とトリックの謎を
ポアロが謎解きするだけかと
安心していると最後に、
クリスティが読み手に仕掛けた罠が、
大きな口を開けて
待ち構えているのです。
私はまんまとその罠に落ちたのですが、
心地よい敗北感でいっぱいです。

もっと早くから読んでおけばよかったと
後悔していたのですが、いやいや、
この年でさえまだまだ
楽しめる本があったことに
感謝の念でいっぱいです。
本の森は奥深い。
クリスティ作品をじっくり
味わっていこうと思います。

※今年2021年は、本作品の
 イギリスでの出版100周年に
 あたるのでした。

(2021.12.29)

TumisuによるPixabayからの画像

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