乱歩らしい「異常嗜好」がこれでもかと現れている
「闇に蠢く」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第2巻」)光文社文庫
画家・野崎三郎には異性に対して
独特の嗜好があった。
顔に代表される
容姿そのものよりも、
肉体そのものの美しさに
惹かれるのだった。
野崎は初めて自分の趣味を
満足させる女・お蝶を
手に入れる。
しかしお蝶は
何かを恐れていた…。
江戸川乱歩初期の長編作品です。
「自作解説」で作者自身が
「ひどく恥ずかし」いと
述べているように、
お世辞にも傑作とはいえない
側面があります。
しかし乱歩らしい「異常嗜好」が
これでもかと現れている作品であり、
そこに本作品の面白さがあるのです。
筋書きとしては
4つの部分に分けられます。
【主要登場人物】
野崎三郎
…画家。異常性癖の持ち主。
お蝶(胡蝶)
…野崎の恋人。
野崎好みの美しい身体を持つ。
かつては踊り子だった。
籾山ホテル主人
…ホテルの怪しげな主人。
進藤
…主人の古い友人。
お蝶と結婚している。
植村喜八
…野崎の知り合いの画家。
探偵趣味がある。
本作品の「異常さ」「起」:
まずは「性」の「異常嗜好」
野崎の異常性癖から語られます。
厭世家でもある彼が、
お蝶にねだられ、
東京を離れる決心をして逃げ込んだのが
籾山ホテルでした。
そこは彼がかつて逗留し、
主人もまた自身と似たような趣味を
持っていると確信したからなのです。
そうなると、そこから
どんな痴態が繰り広げられるか?
本作品はその方面の作品だったのか…と
読み進めると、肩透かしを食らいます。
お蝶が行方不明となるのです。
本作品の「異常さ」「承」:
次には黒幕登場
そのお蝶が恐れていた男が登場。
さらには探偵趣味のある友人も
ホテルに到着。俄然物語は
推理小説らしくなっていきます。
お蝶失踪の謎は?
黒幕・進藤の
犯罪の証拠をつかめるのか?
本作品は本格ミステリだったのか…と
読み進めると、見事に裏をかかれます。
野崎・植村の探偵役二人は
悪役・進藤とともに
生き埋めとなるからです。
本作品の「異常さ」「転」:
闇の中の生存競争
生き埋めとなった三人は、
様々な方法を駆使して脱出を試みます。
洞窟内をくまなく探索、
ありとあらゆるところを
素手で掘り返すのです。
本作品は
危機一髪脱出大作戦だったのか…と
読み進めると、期待は打ち砕かれます。
野崎は…読んで確かめてください。
本作品の「異常さ」「結」:
最後は「食」の「異常嗜好」
そして最後は「食」の「異常嗜好」へ
突き進み、
おぞましい結末が待っています。
本作品はホラー小説として
その筋書きを完結していくのです。
「起承転結」と小見出しを書きましたが、
まったく「起承転結」には
なっていないのです。
乱歩自身が認めているように、
綿密な構想のないまま、
書き繋いでいった結果なのです。
しかしそれでいて、
一つ一つのまとまりは、
妖しい雰囲気に彩られ、
乱歩の世界が
しっかりと完成しているのです。
筋書きではなく、
その世界の「異常さ」に
どっぷり浸かることこそ、
本作品の
正しい楽しみ方といえるでしょう。
(2021.12.30)
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