「悪魔の手毬唄」(横溝正史)

次から次へと、衝撃的な事実が明らかになります。

「悪魔の手毬唄」(横溝正史)
 角川文庫

最初に殺害された泰子の死体には
漏斗と升が、
次に殺された文子の死体には
竿秤と作り物の大判小判が
置かれていた。
それは鬼首村に伝わる
手毬唄の言葉どおりに行われた
犯行だった。
逗留していた金田一は、
次の殺人を予見する…。

横溝正史金田一ものの中でも
傑作中の傑作、「悪魔の手毬唄」です。
30年ぶりに再読しましたが、
やはり背筋がゾクゾクとする
怖さと面白さです。

【主要登場人物】
由良五百子
…83歳の女当主。
 手毬唄を知っている。
由良敦子
…未亡人。仁礼家に対抗意識を燃やす。
由良泰子
…由良家の娘。器量よし。
 最初に殺害される。
 死体の口には漏斗が差し込まれ、
 升からこぼれる水を受けていた。
仁礼嘉平
…仁礼家当主。
仁礼文子
…戸籍上は嘉平の娘だが、実は姪。
 器量よし。二番目に殺害される。
 死体の腰には竿秤が差され、
 大判小判が落ちていた。
青池リカ
…亀の湯の女主人。
青池源治郎
…昭和7年に殺害された。リカの夫。
青池歌名雄
…リカの息子。青年団団長。美男子。
青池里子
…リカの娘。
 身体に赤痣が広がっている。
 三番目に殺害される。
恩田幾三
…23年前に源治郎を殺害し、逃亡。
別所千恵子
…恩田の娘。器量よし。
 人気歌手となる。芸名「大空ゆかり」。
別所春江
…千恵子の母。
日下部是哉
…千恵子のマネージャー。
多々良放庵
…庄屋の末裔。行方不明となる。
栗林りん
…放庵の5番目の妻。
 すでに死亡している。
磯川常次郎…岡山県警警部。
金田一耕助…私立探偵。

本作品の味わいどころ①
血も凍る恐怖・正体は幽霊か?

本作品の目玉はオカルト的恐怖です。
舞台は因習漂う「鬼首村」。
いつもどおり村名からして
おどろおどろしい雰囲気を
醸し出しています。
さらに金田一が峠で出会った、
腰の曲がった老婆・りんは、
すでに他界していました。
では放庵のもとを訪れたりんは幽霊?
その後もこの腰の曲がった老婆が
目撃されており、
あたかも亡霊が殺人を犯したかのような
状況となるのです。
「八つ墓村」の落武者の亡霊よりも
リアル感のある恐怖!
その正体は?読み進めると、
衝撃的な事実が明らかになります。

本作品の味わいどころ②
謎を呼ぶ過去の未解決事件

味わいどころの二つめは、村で起きた
過去の未解決事件の存在です。
磯川警部が静養先として
金田一に鬼首村を紹介したのは、
明らかにその事件の手がかりを
つかみたかったからなのです。
それがこともあろうに
新たな事件が巻き起こるのですから
俄然緊迫感が漲ります。
過去と現在の二つの事件は
どう結びつくのか?
衝撃的な事実が明らかになります。

本作品の味わいどころ③
手毬唄どおりに起こる殺人事件

最大の読みどころはもちろん
表題ともなっている「手毬唄」どおりに
殺人が行われるという
いわゆる「見立て殺人」です。
獄門島」では俳句に擬えて
娘たちが殺害されました。
「犬神家の一族」でも
家宝・斧琴菊を模して
殺人が行われました。
本作品の「手毬唄」はそれに匹敵します。
金田一はそこから
次の殺人を予見するのですが…。
結果は読んで確かめてください。
衝撃的な事実が明らかになります。

本作品の味わいどころ④
孤村特有の淫らな血縁関係

やはり地方を舞台とした
横溝作品らしく、
狭い地域内での淫らな血縁関係が、
事件の背景として横たわっています。
殺害された娘たちの
本当の父親は誰で、
本当の母親は誰なのか?
衝撃的な事実が明らかになります。

本作品の味わいどころ⑤
「顔のない殺人」の新たな形

過去の未解決事件は、
顔面の損傷の激しい、識別困難な死体、
いわゆる「顔のない殺人」です。
ミステリで「顔のない殺人」といえば、
被害者は実は生きていて、
犯人と目される人物こそが
殺害されているというのが定番です。
横溝はこれまでもそれに対して
新しい解答を提案してきているのですが
本作品でも同様です。
果たして23年前に殺害されたのは
いったい誰なのか?
衝撃的な事実が明らかになります。

再読すると、
本当に次から次へと衝撃的な事実が
明らかになっていくことに
驚きました。
「悪魔の手毬唄」は
こんなに面白い作品だったのか!
「獄門島」「八つ墓村」「犬神家の一族」
「悪魔が来りて笛を吹く」等に比べて
印象が今ひとつ薄かったのですが、
どうしてどうして、
完成度の高さという点から見ると
最高位に位置すべき作品です。
これを読まずして
横溝正史を語ることはできません。
幸い今なら杉本一文画伯の復刻装幀が
発売されています。
冒頭に掲げた写真の表紙の本で、
ぜひ味わってください。

※冒頭の写真は、
 横溝生誕120年記念の
 復刻表紙版です。
 旧角川文庫版と同じ
 デザインなのですが、
 光沢と艶のあるカバーです。
 (その売り方には
 問題を感じているのですが…)

※それに対して以下は
 旧角川文庫版の2つの装幀です。
 本作品を、
 都合3冊所有しています。

(2022.1.7)

mskathrynneによるPixabayからの画像

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