本の魅力たっぷり、これで面白くないわけがありません
「ビブリア古書堂の事件手帖5」
（三上延）メディアワークス文庫
組合で噂になっていた、
｢彷書月刊を売却しては
買い戻す女性客｣が、
ビブリア古書堂にも現れる。
その雑誌には不思議な書き込みが
あったものの、買い手が現れた。
その後、女性は
買い戻しに現れたが、
それにはある理由があった…。
その謎を解明するのが
おなじみビブリア古書堂の店主･栞子と
店員･大輔なのです。
この第5巻では、再び原点に回帰し、
3話それぞれで依頼を受け
解決するという形になっています。
【主要登場人物】
篠川栞子
…ビブリア古書堂店主。
足がやや不自由。
五浦大輔
…本編語り手。ビブリア古書堂店員。
篠川文香
…栞子の妹。
篠川知恵子
…栞子の母。10年間失踪中。
志田
…常連。せどり屋。ホームレス。
滝野蓮杖
…栞子と幼馴染みの同業者。
滝野リュウ
…蓮杖の妹。栞子と同級生。
田中敏雄
…太宰の｢晩年｣書版本をめぐり栞子に
怪我を負わす(第1巻において)。
【本作品の構成】
プロローグ：
リチャード･ブローティガン
｢愛のゆくえ｣
第一話：｢彷書月刊｣
第二話：手塚治虫｢ブラック･ジャック｣
第三話：寺山修司｢われに五月を｣
エピローグ：
リチャード･ブローティガン
｢愛のゆくえ｣
本作品の味わいどころ①
絡み合うシリーズの登場人物たち
作者･三上延の
ストーリーづくりの面白さは、
過去の登場人物たちがいろいろと
絡み合ってくるところだと感じます。
一回限りで終わらせずに何度か登場し、
重要な役回りを担うのです。
今回もホームレスの志田が、
第1巻に続いて
クローズ･アップされます。
また、第1巻で栞子に重傷を負わせて
逮捕･拘留されている田中敏雄も
保釈が決定し、最後のエピローグで
その影を見せます。
次の第6巻の布石が
すでに打たれているのです。
連作短篇集の形でありながら、
シリーズを通して
一つの物語が編まれるとともに、
登場人物たちが重層的に絡み合い、
筋書きに立体的な奥行きを
持たせることに成功しています。
これで面白くないわけがありません。
本作品の味わいどころ②
引きずり込まれる古書の世界の魅力
取り上げられるのは、
文豪の古めかしい書版本に関わる
謎ばかりではありません。
第一話は｢彷書月刊｣という
古書の情報誌が登場、
ネット利用が始まる前の
古書情報の授受の様子がよくわかる
内容となっています。
第二話ではなんと漫画の
｢ブラック･ジャック｣。
このコミックスにかつて
こんなバージョン違いがあったとは
知りませんでした。
そして第三話では寺山修司。
マルチ作家の素顔に迫ります。
これで面白くないわけがありません。
本作品の味わいどころ③
遅々として進まない二人の仲
前巻では栞子と母･知恵子の関係に
焦点が当てられていましたが、
今回はそれがやや薄れ、
栞子と大輔の距離が
どう近づいていくのかが
全体を貫く柱となっています。
ここで大接近するか…と思うのですが、
その関係は遅々として進みません。
それでいいのです。
次へと続くのですから。
前巻終末では大輔の告白、
そして本巻終末では
栞子の返答となるのですから、
前進はしているのです。
そして当然最接近！…というところで
水を差されます。いやはや、
やきもきさせられるのですが、
これで面白くないわけがありません。
読み始めると頁をめくる手が
またしても止まりませんでした。
本の魅力たっぷりの世界、
これで面白くないわけがないのです。
すでに第6巻･第7巻、
さらには二人が結ばれた後の
扉子篇第1巻･第2巻も購入済みです。
次に手を伸ばしたいところを
ぐっとこらえて、二人の奸計同様に、
ゆっくりと読み進めたいと思います。
（2022.1.12）
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