「晩菊」(林芙美子)①

件のCMと比べても決して遜色ありません

「晩菊」(林芙美子)
(「女体についての八篇 晩菊」)
 中公文庫

「晩菊」(林芙美子)
(「晩菊/水仙/白鷺」)講談社文芸文庫

きんは、五十六歳になるまで
美しさを失わずに
生き抜いてきた。ある日、
かつて交際していた
田部が訪ねてくる。
きんは田部との再会を喜ぶが、
なぜか自分の心が以前のように
燃えないことに気付く。
やがて田部は金の無心を始め…。

あるサプリのネットCMで
「20代の中に一人だけ!
50歳は誰でしょう?」というのが
ありました。
本作品の再読にあたり、
つい連想してしまいました。
「アンチエイジング」(抗老化)という
考え方は近年
登場したものであるはずですが、
小説の世界では
戦後間もない昭和23年に
すでに存在していたのです。
「自分の老いを感じさせては敗北」と
考える56歳のきんの
「アンチエイジング」には
凄まじいものがあります。

まずは入浴後、
「冷蔵庫の氷を出して、
 二重になったガーゼに包んで、
 鏡の前で十分ばかりもまんべんなく
 氷で顔をマッサアジした。
 ハクライのクリームで
 冷い顔を拭いた」

そして
「冷酒を五勺ほどきゅうとあおる。
 ほんの少量の酒は、
 薄っすりと酔いが発しると、
 眼もとが紅く染まり、
 大きい眼がうるんで来る。
 蒼っぽい化粧をして、
 リスリンでといたクリームで
 おさえた顔の艶が、
 息を吹きかえしたように
 さえざえして来る。
 紅だけは上等のダークを
 濃く塗っておく」

さらに会見の途中では
田部の視線から何かを察し、
「隣室に行くと、
 ホルモンの注射器を取って、
 ずぶりと腕に射した。
 肌を脱脂綿できつくこすりながら、
 パフで鼻の上をおさえた」

酔った田部に見切りを付けた後も、
「茶棚からヒロポンの粒を出して
 素早く飲んだ」

サプリメントも
美容医学もなかった時代、56歳が
30代後半に見えたというのですから、
件のCMと比べても
決して遜色ありません。
いや、むしろそれ以上の効果でしょう。

戦後をしたたかに生きてきた女性が
力強い筆致で描かれています。
これまで講談社文芸文庫版を読み、
収録されている他の5篇とともに
「不幸な女」の物語という
捉え方をしてきていました。
中公文庫版は8人の作家の、
「女体」(なんともはや
直裁的なのですが)に関する作品を
集めたアンソロジーです。
その枠組みの中で読み込むと、
本作品にこれまでとは異なる味わいを
見つけることができました。
注目すべきは
やはり「女体」だったのです。

短篇小説は、
併録される作品群によって、
異なる顔を見せることがあります。
この中公文庫版に収録されている
8篇のほとんどを
すでに読んでいるのですが、
その「異なる顔」見たさに
購入した次第です(「美人画報」の
安野モヨコさんの装丁画に
惹かれたのも理由ですが…)。

「女体についての八篇 晩菊」
〔収録作品一覧〕

「美少女」(太宰治)
「越年」(岡本かの子)
「富美子の足」(谷崎潤一郎)
「まっしろけのけ」(有吉佐和子)
「女体」(芥川龍之介)
「曇った硝子」(森茉莉)
「晩菊」(林芙美子)
「喜寿童女」(石川淳)

(2022.01.19)

StockSnapによるPixabayからの画像
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