
こんな授業をしてみたい、こんな生き方をしてみたい
「〈銀の匙〉の国語授業」(橋本武)
岩波ジュニア新書
「銀の匙」授業。
中学三年間をかけて、
ゆっくり読む。
自分が調べた過程を生徒にも
経験してもらうようにしました。
大事なのは答えではなく
過程です。
早急に答えを求めてはいけない、
すぐ役立つものは
すぐに役立たなくなります…。
こんな授業をしてみたい、いや、
こんな生き方をしてみたい。
本書を読んでの感想です。
ここには灘校で五十年間教壇に立ち、
その後二〇〇五年以降、
書籍やNHKの放送等でその独特の授業が
脚光を浴びることとなった
伝説の国語教師・橋本武の、
国語の学び方について書かれた本です。
このとき著者はなんと一〇〇歳!
そのエネルギーの大きさに
さらに驚かされます。
〈銀の匙〉の国語授業の素敵な点、
それこそがそのまま
本書の味わいどころとなるのです。
〔本書の構成〕
はじめに
Ⅰ 「土曜講座」 二七年ぶりに教壇に立つ
Ⅱ 私の「銀の匙」授業
Ⅲ 国語を学ぶとは
Ⅳ 人生の節目に思う
あとがき
本書の味わいどころ①
自作プリントによる「オリジナル」授業
現代のような
パソコンもワープロもない時代です。
ガリ版刷りでの自作プリント作成の、
膨大な作業を「趣味」としてこなす姿に
まず脱帽です。
教科書に頼ることなく、
自ら編み出した方法で
授業を創り上げる。
ここにしかないオリジナルの授業。
考えただけでもワクワクします。
実は私(理科教師です)も
ノートを使用せず、
自作プリント(学習シート)で
授業を行っているのですが、
それはパソコンという
強力なツールがあって
初めて可能となることです。
私は幸いなことに
平成元年から仕事を始めましたが、
その当初から「ワープロ」
(今の若い方々には知らない人も
多いのですが)がありました。
しかし著者はガリ版。
修正が利かない上に、
一度印刷してしまえば
再利用が叶いません。
大変な労力と時間だったと
想像できます。
こうした仕事(教育)に打ちこむ
著者の姿に接近することこそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
本書の味わいどころ②
教えるのではなく学ぶ力を育てる授業
それ以上に素敵なのは、
生徒に知識を与えるのではなく、
生徒の学ぶ力を育てる
授業を行っていることです。
昭和の時代に、
現代のアクティブ・ラーニングに通じる
授業が展開されていたのです。
私も生徒の「探究力」を引き出す
授業の構築に腐心しているのですが、
著者はすでにそうした
「学びの本質」を的確に捉え、
完成させているのです。
その先見性の極めて高い教育実践に
感服するしかありません。
この、著者が示している
「教え導くことの本質」を
体感することこそ、
本書の第二の
味わいどころとなるのです。
本書の味わいどころ③
「銀の匙」をテキストとした統合的授業
細切れで断片的な学びではなく、
「銀の匙」を俎上に載せ、
中学生の国語学習で
身につけるべき点をすべて網羅し、
体系的に学びを再構成する。
これにも唸らされます。
私も理科授業において
一つの単元の骨格を決め、
それに沿った形で単元を再構成し、
有機的な繋がりを持った授業を
目指していますが、
その完成形を見たような
感触を得ることができました。
こうした系統的かつダイナミックな
学びの在り方を知ることこそ、
本書の第三の
味わいどころとなっているのです。
なんと、私が教職について三十年以上
取り組んできた試みの多くが、
遙か昔(私が中学生高校生だった頃)に、
教科こそ違えどすでに完成されて
実践されていたこと、
そして私の取り組んできたことは
まだまだそこまで
遠く及んでいないことに、
深い感動と
大きな刺戟を受けた次第です。
それだけでなく、八〇歳を過ぎてからの
「源氏物語現代語訳」の完成と出版
(それも当初は公的な出版を予定せず、
自らのライフワークとして
始められている)、
九九歳にして再び灘校で
特別授業を行うなど、
人生一〇〇年時代を体現しているような
生き方です(表紙に小さく写っている
写真の服装もおしゃれ!)。
中高生対象の
岩波ジュニア新書からの一冊ですが、
それを越えて
教職員が自らの授業の在り方を
振り返るための教育書であり、
さらには仕事を引退された方々が、
人生を愉しく全うするための
手引き書として、
広く読まれるべき一冊です。
(2022.2.2)
〔関連記事:橋本武先生の本〕

〔関連記事:中勘助「銀の匙」〕
「銀の匙」(中勘助)①
「銀の匙」(中勘助)②
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〔関連記事:日本語の学び〕




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