「魔女の暦」(横溝正史)

金田一の東京の事件は、エロス&グロテスク。

「魔女の暦」(横溝正史)
(「魔女の暦」)角川文庫

浅草のレビューの舞台、
三人の魔女役が
肢体を晒して踊っていた。
金田一の目前で魔女の一人が
毒を塗った吹き矢を撃たれ
殺害される。
吹き矢は舞台で使う
小道具の一つだった。
犯人は劇場関係者か?
そして第二の魔女が殺害され…。

横溝正史の東京を舞台とした
金田一耕助シリーズの一作品です。
東京を舞台とする場合、
横溝の筆はエロ・グロになる
傾向が見られるのですが、
本作品などは
その最たるものといえるでしょう。
全編まさにエロスとグロテスクの
饗宴ともいえる内容となっています。

【主要登場人物】
飛鳥京子
…紅薔薇座踊り子。
 一番目に殺害される。
霧島ハルミ
…紅薔薇座踊り子。
 二番目に殺害される。
紀藤美沙緒
…紅薔薇座踊り子。
結城朋子
…紅薔薇座スター女優。
 盛りは過ぎている。
牧ユミ子
…紅薔薇座踊り子。まだ若く清純。
碧川克彦
…紅薔薇座新人男優。若い美男子。
岡野冬樹
…紅薔薇座座頭格。
山城岩蔵
…紅薔薇座支配人。京子は愛人である。
柳井良平
…紅薔薇座戯作者。美沙緒は内縁の妻。
甲野梧郎
…紅薔薇座音楽担当。
 ハルミは内縁の妻。
入沢松雄…紅薔薇座ドラム担当。
山本孝雄…紅薔薇座振付師。
関森警部補…所轄署捜査主任。
等々力警部…警視庁警部。
金田一耕助
…私立探偵。
 何者かに紅薔薇座に呼び出される。

本作品の読みどころ①
舞台の台本を模して行われる殺人事件

舞台の台本からして
エロス&グロテスクです。
なにせ三人の魔女が勇者に成敗され、
次々に裸にされるという
ストリップが目的の演目ですから。
その魔女の一人がなんと金田一耕助の
目の前で殺害されるのです。
なぜ金田一がそんな下劣な劇場に
足を運んだか?
それは何者かによる
殺害予告ともとれる手紙を
受け取ったからにほかなりません。
それはまさしく
金田一耕助への挑戦でもあるのです。

本作品の読みどころ②
芸能界特有のドロドロした男女関係

三人の魔女役のうち、
京子は山城の愛人、
ハルミは河野の内縁の妻、
美沙緒は良平の内縁の妻、
それでいて三人とも碧川と
肉体関係を持っています。
ところがその碧川の本命は
ユミ子なのです。
さらに男女関係は複雑に入り組みます。
なんと爛れた劇場の人間関係。
そう驚きながら読み進めると、
サディストあり、
マゾヒストあり。
男女関係はもちろん
エロス&グロテスク。

本作品の読みどころ③
限定される関係者・特定できない犯人像

第一の殺人については
自殺説が浮上した関係で、
捜査が行き詰まってしまいます。
その中で第二の殺人が起きるのです。
舞台関係者以外に
犯人は考えられない状況なのですが、
それでいて真犯人を絞りきれない
捜査陣のふがいなさ。
それは読み手も同じことです。
読み手はエロスにも似た
「じらされる感覚」を十分に味わった後、
その目の前に
もっともグロテスクといえる
第三の殺人現場を
提示されてしまうのです。
読み手の謎解きにおいてもやはり
エロス&グロテスク。

角川文庫で
昨年9月に復刊されたのを機に、
約40年ぶりの再読を果たしました。
思い起こせば私は中学生の段階で
本書を初読していたのです。
そんな私もやはりエロス&グロテスク。

(2022.2.4)

emsalgadoによるPixabayからの画像

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