「魔女の暦」(横溝正史)

キーワードは、エロティック&グロテスク。

「魔女の暦」(横溝正史)
(「魔女の暦」)角川文庫

浅草のレビューの舞台、
三人の魔女役が
肢体を晒して踊っていた。
金田一の目前で魔女の一人が
毒を塗った吹き矢を撃たれ
殺害される。
吹き矢は舞台で使う
小道具の一つだった。
犯人は劇場関係者か?
そして第二の魔女が殺害され…。

横溝正史の東京を舞台とした
金田一耕助シリーズの一作品です。
東京を舞台とする場合、横溝の筆は
エロティック&グロテスクになる
傾向が見られるのですが、
本作品などは
その最たるものといえるでしょう。
全編まさにエロティックとグロテスクの
饗宴ともいえる内容となっています。

【事件簿File-052「魔女の暦」】
〔依頼人〕
依頼人なし
※警察への捜査協力
〔捜査関係者〕
関森警部補…所轄署捜査主任。
井上刑事三原刑事新田刑事
…所轄署刑事。
望月刑事…警視庁刑事。
等々力警部…警視庁警部。
〔事件関係者〕
飛鳥京子
…紅薔薇座踊り子。殺害される。
霧島ハルミ
…紅薔薇座踊り子。殺害される。
紀藤美沙緒
…紅薔薇座踊り子。
牧ユミ子
…紅薔薇座踊り子。まだ若く清純。
結城朋子
…紅薔薇座スター女優。
 盛りは過ぎている。殺害される。
碧川克彦
…紅薔薇座新人男優。若い美男子。
 京子・ハルミ・美沙緒の三人と関係。
岡野冬樹
…紅薔薇座座頭格の俳優。
山城岩蔵
…紅薔薇座支配人。京子は愛人。
柳井良平
…紅薔薇座戯作者。美沙緒は内縁の妻。
甲野梧郎
…紅薔薇座音楽担当。
 ハルミは内縁の妻。
入沢松雄…紅薔薇座ドラム担当。
山本孝雄…紅薔薇座振付師。
工藤順蔵…紅薔薇座大道具係。
金井啓介…紅薔薇座作者見習い。
井本鈴子…つれこみ宿の主人。
「魔女の暦」
(「黒い手袋をはめた手の持ち主」)
…殺人鬼。
〔事件発生〕
昭和29年(東京・浅草)
〔事件の概要〕
5月15日
・金田一耕助、殺人予告を受け取る。
5月17日(第一の殺人)
・金田一、紅薔薇座で観劇。
 上演中に飛鳥京子、殺害される。
6月1日(第二の殺人)
・霧島ハルミの死体発見(殺害は前夜)。
6月17日(第三の殺人)
・結城朋子の死体発見(殺害は前夜)。

本作品の味わいどころ①
舞台の台本を模して行われる見立て殺人

舞台の台本からして
エロティック&グロテスクです。
なにせ三人の魔女が勇者に成敗され、
次々に裸にされるという
ストリップが目的の演目ですから。
三重殺人事件は、
その演目の内容に沿って行われていく、
一種の「見立て殺人」と
なっているのです。

これまでの見立て殺人といえば、
「獄門島」「悪魔の手毬唄」と、
岡山県の片田舎を舞台にしていました。
本作品は東京浅草。
だからでしょう、エログロの
見立て殺人となるのです。

その第一の殺人は、なんと金田一耕助の
目の前で引き起こされるのです。
なぜ金田一がそんな品のない劇場に
足を運んだか?
それは何者かによる
殺害予告ともとれる手紙を
受け取ったからにほかなりません。
それはまさしく
金田一耕助への挑戦でもあるのです。
このエログロ要素満点の見立て殺人を、
まずはじっくり味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
風俗芸能界特有のドロドロした男女関係

その三人の魔女役のうち、
京子は山城の愛人、
ハルミは甲野の内縁の妻、
美沙緒は柳井の内縁の妻、
それでいて三人とも碧川と
肉体関係を持っています。
ところがその碧川の本命は
ユミ子なのです。
さらに男女関係は複雑に入り組みます。
なんと爛れた劇場の人間関係。
そう驚きながら読み進めると、
サディストあり、
マゾヒストあり。
このエログロ要素満点の男女関係を、
次にしっかり味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
限定される関係者、特定できない犯人像

第一の殺人については
自殺説が浮上した関係で、
捜査が行き詰まってしまいます。
その中で第二の殺人が起きるのです。
舞台関係者以外に
犯人は考えられない状況なのですが、
それでいて真犯人を絞りきれない
捜査陣のふがいなさ。
それは読み手も同じことです。
読み手はエロスにも似た
「じらされる感覚」を十分に味わった後、
その目の前に
もっともグロテスクといえる
第三の殺人現場を
提示されてしまうのです。
読み手の謎解きにおいてもやはり
エロティック&グロテスク。
このエログロ要素満点の作品構造こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと堪能してください。

金田一耕助の事件簿

角川文庫で
昨年9月に復刊されたのを機に、
約40年ぶりの再読を果たしました。
思い起こせば私は中学生の段階で
本書を初読していたのです。
そんな私もやはり
エロティック&グロテスク。
いや、大変失礼いたしました。

(2022.2.4)

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(2025.2.13)

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