「びっくり箱殺人事件」(横溝正史)

ミステリに見せかけた喜劇、いや長編コント、いや…

「びっくり箱殺人事件」(横溝正史)
(「びっくり箱殺人事件」)角川文庫

連日活況の
人気レビューの舞台上、
パンドーラの匣を開けた
役者の胸に、
中から飛び出してきた短剣が
突き刺さる。
前代未聞の殺人事件に、
警視庁から駆けつけた
等々力警部が捜査を開始する。
難航を極める中、
第二第三の殺人が…。

先日復刻された
角川文庫横溝正史シリーズの一つです。
オビには「異色、復刊」の文字が
躍っているとおり、本作は
横溝作品の中では極めて異色です。

【主要登場人物】
深山幽谷
…作家兼俳優兼兼演出家の
 多芸多才な人物。カリガリ博士役。
深山恭子
…幽谷の娘。辣腕美人マネージャー。
野崎六助
…一六新聞記者。通称・珍漢先生。
剣突謙造
…梟座楽屋番。通称・オペラの怪人。
石丸啓助
…梟座二枚目役者。
 エピミシュース役。殺害される。
紅花子
…梟座のスター。パンドーラ役。
柳ミドリ…パンドーラ役代役。
葦原小群…フランケンシュタイン役。
柴田楽亭…キングコング役。
半紙晩鐘…せむしのカジモド役。
灰屋銅堂…ハイド役。
顎十郎…眠り男役。
熊谷久摩吉…梟座興行主任。
田代信吉…梟座企画担当。
細木原竜三…レヴュー作者。
古川万十…幽谷の元・マネージャー。
等々力警部…警視庁警部。

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今日のオススメ!

本作品の異色度①
おどろおどろしさまったくなし

「パンドーラの匣」を題材とした
スリラー&お色気劇場、
観客の目の前での殺人、
凶器は演目に使用される小道具。
となると、先日取り上げた「魔女の暦」と
何やら似た設定のように思えますが、
雰囲気は全く異なります。
横溝ミステリ共通の
「おどろおどろしさ」が
まったくないのです。

「諸君、そのとき六助は
 どこにいたかわかりますか。
 わからなければ鐘ですゾ。
 いいですか、あと十秒、あと五秒、
 あと三秒…カーン。」

どこまでもコミカルな横溝の文体。
ミステリに見せかけた喜劇、
いや長編コントなのです。

本作品の異色度②
何も役に立っていない等々力警部

長編作品でありながら、
金田一耕助は登場しません。
しかしながらその相棒・等々力警部が
登場するのです。
「そうか、本作品は等々力警部の
探偵譚なのか」と思って読み進めると
肩透かしを食らいます。
等々力警部はいつもどおり
何も解決できないのです。

それどころか現場の梟座の一室で
取り調べをしている最中に、
外部からの侵入者を許し、
その侵入者が殺害されるという
第2の殺人が、
さらには警部が用を足している最中に
第3の殺人が、
相次いで起こってしまうのです。
警察官が多数配置された中での
連続殺人事件。
あり得ない設定ですが、
だからこその
ミステリに見せかけた喜劇、
いや長編コントなのです。

本作品の異色度③
犯人と思いきや実は名探偵

ミステリといえば犯人捜し。
そこにミステリを読む
醍醐味があります。
本作品も例外ではありません。
見るからに怪しい容貌の人間が
犯人と思えば、
実は終末では殺害されてしまいます。
ここまではよくあるのですが、
本作品の最大の特色は、
次に怪しいと思えた人物が、
犯人ではなく実は「名探偵役」を
こなしているということです。
これには脱帽です。
等々力警部が「探偵役」では
なかったのです。

それがなければ本作品はただの
コメディに堕してしまうところです。
しかしさすがは横溝。
コメディタッチの本作品の中に
本格ミステリとしての骨格を
しっかりと埋め込んでいたのです。
本作品は、
喜劇、いや長編コントに見せかけた
本格的探偵小説なのです。

横溝異色の一篇、
ぜひ読んで確かめてください。

※本書にはもう一篇、
 「蜃気楼島の情熱」
 収録されています。こちらは
 金田一耕助の登場する作品です。

(2022.2.11)

Riaan MaraisによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

【関連記事:金田一耕助の事件簿】

【復刊:角川文庫の横溝正史】

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