「細胞発見物語」(山科正平)

面白い、そしてわかりやすい。すっきりしました。

「細胞発見物語」(山科正平)
 講談社ブルーバックス

オオカナダモの葉や
タマネギの鱗片葉、
ヒトの頬の粘膜などを
酢酸カーミン液で染色し、
顕微鏡を使って細胞を観察する。
中学校2年生の理科の内容です。
私も中学校の理科教師である以上、
毎年と言っていいほど
細胞の観察を行っています。
あるとき気づきました。
そうやって観察していても、
子どもたちは「細胞」について
正確な概念を持つにいたって
いないのではないかと。
いや、それ以前に自分自身が
「細胞」について
よく知っていないのではないかと
(ちなみに私の専門は化学)。
今さら「○○○の分子生物学」のような
大学の参考書的な専門書を
読む気にはなりません。
ならばブルーバックス
手頃なものがありました。
本書です。
一気に読んでしまいました。
面白い、そしてわかりやすい。
すっきりしました。

本書の面白さとわかりやすさ①
オムニバス形式で興味を引く構成

専門書・学術書は
系統性を重視するあまり、退屈です
(こんなことを言っているようでは
教師失格なのですが)。
その点、本書は系統性を犠牲にして、
読者の興味をそそる切り口での
オムニバス形式の構成となっています。

【本書の構成】
第1章 細胞の発見者は誰か?
第2章
 生物学に革新をもたらした電子顕微鏡
第3章 細胞生物学と「膜」の発見
第4章 ゴルジ装置は細胞の魚河岸
第5章 ミトコンドリアの反乱
第6章 伊東細胞をめぐるミステリー
第7章 唾液に潜む謎の物質を探せ
第8章
 病気が教えてくれた細胞の働き
第9章
 発見に貢献した不思議な細胞たち
第10章
 生命をつかさどるモーターを捉えた
第11章 夢の細胞 iPS細胞の誕生

細胞を発見した(といわれている)
ロバート・フックが
自前の顕微鏡で見ていたのは
「細胞」ではなく正確には「細胞壁」!
1970年代、国産の電子顕微鏡が
世界を席巻していた!
細胞の構造で大切なのは「膜」!
日本人研究者の名前を冠した
「伊東細胞」の存在!
目から鱗の連続です。

本書の面白さとわかりやすさ②
iPS細胞など最新の研究まで網羅

ノーベル賞研究者・下村脩の
蛍光タンパク質が
分子生物学にどう寄与したか、
同じくノーベル賞研究者・
山中伸弥教授の発見したiPS細胞が
切り拓く医療科学の未来、
そうした最先端の知識まで
本書の内容は到達しています。
それも難しい話ではなく
研究裏話的な内容を優先させ、
中学生高校生が読んでも面白さを
感じられるものとなっています。

本書の面白さとわかりやすさ③
たとえが面白い、文章が面白い
自然科学の新書でありながら、
一気に読んでしまえるのは、
難しい内容を説明するために用いている
「例え」が面白く、
その文章も軽妙洒脱で
すんなり受け入れることが
できるからです。
細胞のアポトーシス(自死)を
説明する件では
細胞の集まりを「家庭」と見なし、
(アポトーシスが起こるのは)
 細胞自らが合成したタンパク質に
 不良品が出来る場合だ。
 つまり不良息子の誕生と
 言えようか」

さらには
(ミトコンドリアの作用によって
 アポトーシスが
 引き起こされるのは)
 家庭内に発生した重大な不和に
 嫌気がさして
 間借り人のミトコンドリアが
 大暴走して
 家屋ごとぶっ壊してしまった
 姿ということができるだろう」

こうした表現であるため、
自然科学を苦手としている方にも
十分に受け入れられると思うのです。

内容的には高校生物の範疇でしょうか。
中学生にとっては
ちょっと背伸びした参考書、
高校生にとっては
学習への導入としての読み物、
大人にとっては
自然科学の学び直しのための一冊として
お薦めできます。

(2022.2.22)

PublicDomainPicturesによるPixabayからの画像

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