「アイスクリン強し」(畠中恵)①

ゆるめの、いや、スイーツなミステリ

「アイスクリン強し」(畠中恵)
 講談社文庫

明治23年の東京で
西洋菓子屋を開いた真次郎と、
そこに集う若い警察官たち
「若様組」のもとに、
不思議な書状が届く。
差出人の名前もないそれには、
差出人を推定し、
差出人が欲している「あるもの」を
持参することが記されていた…。

江戸の妖たちのファンタジー
「しゃばけ」が大ヒットした作家・
畠中恵の、こちらは明治の
東京を舞台とした素敵な作品です。

【主要登場人物】
皆川真次郎
…東京で洋菓子屋・風琴屋を開業。
 外国人居留地で育つ。
小泉沙羅
…気の強い女学生。真次郎の幼馴染み。
小泉琢磨
…沙羅の父親。成金富豪。
長瀬
…元幕臣の警察官。真次郎の幼馴染み。
 「若様組」の一人。
園山・福田
…「若様組」の巡査。
「若様組」
…元幕臣の巡査たち。
 長瀬・園山・福田の他に数名いる。
相馬小弥太
…元藩士の倅。書生。

本作品の味わいどころ①
文明開化のミステリ

なんといっても文明開化の明治を
舞台にしたストーリーが新鮮です。
しかも当時の歴史的背景も
詳細に説明されていて、
歴史に詳しくなくても物語にすんなり
入り込んでいくことができます。
ミステリといっても血なまぐさい事件が
起きるわけではありません。
第1話では小弥太を付け狙う
元藩士たちの「元主君御落胤探し」、
第2話は貧民窟での「食材謎解き」、
第3話では新聞社への
「ゴシップねた流出主探し」、
第4話は大物警視の「訳あり肉親捜し」、
そして第5話は「謎の手紙の謎解き」と
なっています。
きわめてゆるめの、いや、スイーツな
ミステリとなっているのです。

本作品の味わいどころ②
素敵なスイーツが小道具

主人公が西洋菓子職人なのですから、
当然その当時、流行り始めたスイーツが
物語に絡んできます。
スイーツが事件の鍵を握っていたり、
スイーツから動かぬ証拠が判明したり、
スイーツによって
事件の解決が図られたり、
ということは残念ながらありません。
スイーツはあくまでも小道具です。
なんともゆるやかな、いや、
スイーツな設定となっているのです。

本作品の味わいどころ③
若い登場人物たちの特異なキャラ

ただの菓子職人でありながら
やっかいごとに
すぐ首を突っ込む真次郎は、
実は射撃の名手でピストル所有。
クールで豪胆な警察官・長瀬は、
事件を上手に利用して副収入稼ぎ。
社長令嬢・沙羅は、明治の時代にあって
男友達をやり込める強気の女学生。
何とも強烈なキャラクターを持った
登場人物たちです。
いやはや浮世離れした、
いや、スイーツな
登場人物となっているのです。

この人物たちの活躍をもっと読みたい!
そう思って調べてみると、
なんと続編二作
「若様組まいる」「若様とロマン」が
すでに刊行されていたのでした。
中学生に、このスイーツな小説を
お薦めしたいと思います。

(2022.3.7)

Foundry CoによるPixabayからの画像

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