書店で起こるささやかな「なぜ?」
「本と謎の日々」(有栖川有栖)
(「本屋さんのアンソロジー」)
光文社文庫

詩織がアルバイトしている
華谷堂書店には、
いろいろな客がきて、
時折小さな謎を残していく。
入荷した全集本が
痛んでいたのだが、
注文した客は
「むしろありがたい」と言って
引き取った。
疑問に感じている詩織に、
店長・浅井は…。
「本屋さん」をモチーフにした
アンソロジー、その名も
「本屋さんのアンソロジー」に
収録されている最初の一篇です。
書店で起こるささやかな「なぜ?」を、
詩織が見つけ、
浅井が素早く解決するという
おしゃれなミステリです。
第1の事件
「亡くなったはずの注文主が現れる」
と書くと、ホラー小説のようですが、
たいしたことではありません。
入荷案内の電話を入れたところ
「取り込み中」と迷惑がられ、
電話を切ったという
経緯があったのです。
注文主が亡くなり、
その葬儀の最中と勘違いした詩織。
店長は素早く
「今どき自宅で葬儀はあげない」
「宗派によって木魚を叩くか否かの
違いがある」ことを解説していくのです。
第2の事件「傷んだ本を喜ぶ客」
一冊一万円もする全集本が
輸送途中のアクシデントで
角が傷んだり
帯が破れたりしたのですが、
注文主は「むしろありがたい」といって
引き取ります。
店長の推理は「彼は恐妻家だから」。
恐妻家なら本が傷んでいても
かまわないのか?なぜ?
第3の事件「返品の客の一言の謎」
同じ本を二冊買ってしまい、
一冊を返品しにきた客。
多くの書店はそうした返品など
受け付けないのでしょうが、
華谷堂書店はおおらかです。
でもその客が
「これからは気をつけてくださいね」
という逆ギレ的苦情を残したのです。
店長が注目したのはその本の「版」。
そして客はあえて二冊目を購入し、
最初の一冊を返品したと解きます。
なぜ?
第4の事件「手書きPOP盗難事件」
これなら「事件」でしょう。
手書きPOPが二度に渡って
(しかも同じものが)なくなる。
出張中の店長に話すと、
アガサ・クリスティーの
「親指のうずき」という本を
調べろという指示が。
見事そこに
POPが挟まれてあったのです。
なぜ?
第5の事件「死神現る」
詩織が一人で店番をしていた
夜の閉店間際。
雨でずぶ濡れの男が店内を一巡し、
週刊誌を一冊購入していくのですが、
その挙動は極めて怪しいのです。
翌日店長はその正体を「死神」と看破。
なぜ?
「謎」といっても
「ビブリア古書堂の事件手帳」のような
大がかりなものではありません。
推理というよりは状況の推論、
今風の表現では
「たぶんこうだったんじゃないか劇場」
的な仮説なのです。
それでも小気味よく進行する筋書きは
爽快感があります。
シリーズ化してもいいくらいの
出来なのです。
読書の習慣のない
中学生高校生であっても、
こうした作品であるなら
すんなり入っていけるはずです。
そして本好きな大人も
十分に愉しめます。ぜひご一読を。
※作者・有栖川有栖は
売れっ子作家らしいのですが、
私はこの作品がはじめてです。
そのうち他の作品も
味わってみたいと思います。
〔本書収録作品一覧〕
「本と謎の日々」有栖川有栖
「国会図書館のボルト」坂木司
「夫のお弁当箱に石をつめた奥さんの話」
門井慶喜
「モブ君」乾ルカ
「ロバのサイン会」吉野万理子
「彼女のいたカフェ」誉田哲也
「ショップtoショップ」大崎梢
「7冊で海を越えられる」似鳥鶏
「なつかしいひと」宮下奈都
「空の上、空の下」飛鳥井千砂
(2022.3.22)

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