「一寸法師」(江戸川乱歩)

明智小五郎、まさにリ・スタート

「一寸法師」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第2巻」)光文社文庫

小林は好意を寄せていた
百合枝から、
失踪した継子の三千子の
捜索のため、探偵・明智小五郎を
紹介して欲しいと頼まれる。
明智は早速調査を開始するが、
出てくる証拠は、
三千子の死と
その犯人が百合枝であることを
示していた…。

江戸川乱歩明智小五郎シリーズ
第6作となります。
それ以前の5作品が
すべて短篇であることを考えると、
本作品は明智小五郎初の
長編としての事件(分量は
中編程度といえるのですが)なのです。
その後に発表された明智シリーズは
「何者」「兇器」のみ短篇であり、
他のすべてが
中・長編であることを考えると、
この「一寸法師」こそ、明智小五郎の
リ・スタート作品といえるのです。

【主要登場人物】
小林紋三
…百合枝に恋心を抱いている。
 明智の友人。
山野三千子
…殺害された山野家の娘。19歳。
 運転手の蕗屋と恋仲。
山野百合枝
…三千子の継母。30歳。
山野大五郎
…実業家。46歳。
 三千子の失踪後、病床に伏せる。
蕗屋
…山野家の運転手。
 三千子と恋仲である一方、
 小間使いの小松とも深い仲。
 三千子失踪後、実家に戻る。
小松
…山野家の小間使い。
 三千子の失踪後寝込み、
 その後行方不明。
北島春雄
…三千子の元恋人。
 犯罪に手を染め、服役。
安川国松…人形師。
一寸法師
…奇怪な行動をする謎の小男。
斎藤・平田…明智の部下。
明智小五郎…私立探偵。

明智小五郎リ・スタート的要素①
お洒落になった探偵像

本作以前の明智小五郎は、
服装に無頓着、
木綿の着物によれよれの兵児帯、
髪はモジャモジャ、
痩せ型、
興奮すると髪を掻き回す、等々、
おなじみの紳士然とした風貌ではなく、
まるで横溝正史
金田一耕助そのものなのです。
長編作品で
明智を登場させることになり、乱歩は
「こんな貧相な探偵ではではいかん」と
思ったのでしょうか、
その容貌をホームズに
近いものにしてしまいました。
大人になった明智小五郎、
まさにリ・スタートなのです。

明智小五郎リ・スタート的要素②
部下を活用・警察と連携

これまでは事件の謎を解くのを
趣味として、部下も使わず単独行動、
必要があるとき以外は
警察とも連携せず、
孤高の風来坊的な行動でした。
本作品では斎藤・平田という
少なくとも3名の部下を使い、
山野家の使用人・お雪を内偵者とし、
警察とも連携し、
必要な証拠物件の鑑定依頼もする。
こうして一人では解決できないような
難事件を手がける準備は
万端に整っているのです。
組織的捜査をする明智小五郎、
まさにリ・スタートなのです。

明智小五郎リ・スタート的要素③
常人離れした犯罪者が相手

本作以前の明智の捜査対象は
悪知恵のはたらく一個人でしたが、
ここからは乱歩らしい
異色キャラクターの目白押しです。
本作の「一寸法師」もそうですが、
以降は「蜘蛛男」「吸血鬼」「黄金仮面」
「黒蜥蜴」「人間豹」という、
まるで二十面相が化けているかのような
犯罪者像です
(「黄金仮面」の正体は何とルパン!)。
怪物相手に捜査する明智小五郎、
まさにリ・スタートなのです。

作者自身の作品解説を読むと、
乱歩はこの作品をあまり
気に入っていなかったようです。
急遽要請された新聞連載であり、
十分な構想を練る余裕がなかったこと
(そのため内容に
矛盾点も指摘されている)、
新聞掲載の手前、
直前に書いた「パノラマ島奇譚」のような
エログロ路線に
踏み出せなかったこと等、
理由はあったのでしょう。
しかしながら本作品は
明智小五郎のリ・スタートともいえる
作品であり、
特異な存在感を放っています。
大正15年に発表された
昔々のミステリ、いかがでしょうか。

※「江戸川乱歩全集第2巻
  パノラマ島奇譚」収録作品一覧

闇に蠢く
湖畔亭事件
空気男
パノラマ島綺譚
一寸法師

(2022.4.8)

Susan CiprianoによるPixabayからの画像

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