10代のあなたの感性に訴えるものがあるはず
「紙の心」(グエッラ/長野徹訳)
岩波書店STAMPBOOKS

図書館の本を介して
手紙のやりとりをする
少年と少女。
顔も名前も知らないまま、
お互いの距離は
少しずつ接近していく。
少年は会うことを求めるが、
少女はそれを拒み続ける。
なぜならここを出ると、
いずれ忘れてしまうから…。
「わたし、あなたの筆跡が好き。
情熱的な男の子なんだね。
そうでしょう?」
「ぼくはちっとも情熱的じゃないよ。
こんなふうにワクワクすることは
最近なかった。
また手紙を書いてよ。」
最初の数頁を読むと、
思春期の少年少女の
無意味なやりとりに、
「失敗した、超甘口の
ライトノベルだったか」と
失望するかもしれません。
ところがさらに数頁読むと、
引っかかるワードが
いくつも現れてきます。
舞台は学校ではなく「研究所」、
生徒はすべて「ID番号」で呼ばれている、
研究所には「鏡がない」、
定期的に「検査」を受けている、
そして「ティーンエイジャーの問題を
解決する新しい治療法」
「世界の果てにある研究所」となると、
単純な青春恋愛ものがたりなどでは
ないことは明白です。
【主要登場人物】
ダン
…図書館の本に挟まれた
手紙を発見し、文通する。
ユーナ
…手紙を本に挟んだ少女。
ヨランダ
…ユーナが心を許せる友人。
アラミス
…ダンのルームメイト。
研究所の秘密を探る。
ポルトス
…ダンのルームメイト。食欲旺盛。
猟犬(セグージョ)
…不正を追及するルポライター。大人。
※5人の少年少女の名前は
子どもたちが物語からとった仮名
本作品の味わいどころ①
書簡体小説ならではのなまめかしさ
最後までずっと手紙のやりとりのみで
筋書きが進行します。
いわゆる書簡体小説です。
手紙である分、ダンとユーナの心情が
ストレートに表現されていて、
そのなまめかしさに読み手も
ドキドキ感を味わえるはずです
(私のように50を越えると
ややしんどいのですが)。
ネットを介した意思疎通が
子どもたちの生活に浸透している
現代だからこそ、
この手紙の往復が
新鮮に感じられるはずです。
こうなると読まずにはいられません。
本作品の味わいどころ②
盛り込まれるSF・サスペンス・冒険
上に記したキーワードからも、
本作品が単なる青春物語ではなく、
SF的な近未来、
管理社会を匂わせるサスペンス、
そしてそうした状況からの
脱出=冒険を予感させるはずです。
そうなのです。
青春恋愛ストーリーを
縦糸としながらも、
SF・サスペンス・冒険の要素を
横糸として織り込み、
奥行きのある物語を
展開させているのです。
こうなると読まずにはいられません。
本作品の味わいどころ③
自分自身の在り方を問う深いテーマ
そして単なるエンターテインメントで
終わっていないのです。
人間の在り方の核心に迫るテーマを
内包しているのです。
「欠点は、空に浮かぶ雲みたいに、
ぼくたちを
味わい深い人間にしている。
傷跡は、
誇らしげに見せつけるものだ。
隠す必要はない。」
ダンの言葉は十代の読み手の心に
深く響くはずです。
こうなると読まずにはいられません。
今の若い人たちは羨ましいと思います。
こんな素敵な作品が読めるのですから。
ライトノベルなぞに満足せず、
こうした新進気鋭の海外作家の作品を
読んでみて欲しいと思います。
10代のあなたの感性に、
きっと何か訴えるものがあるはずです。
そうです。こうなると
読まずにはいられないはずです。
※作者
エリーザ・プリチェッリ・グエッラは
1970年生まれのイタリア人作家。
こうした海外の現代作家の作品が、
もっと若い読み手の元に
届けられるべきだと
以前から感じていました。
それを叶えているのが岩波書店の
STAMPBOOKSシリーズです。
(2022.4.13)

【関連記事:岩波STAMPBOOKS】
【関連記事:子どもたちの革命】
【今日のさらにお薦め3作品】
【岩波STAMPBOOKSはいかが】