予想は、ことごとく外されてしまいます
「金剛石の指輪」(黒岩涙香)
(「黒岩涙香探偵小説選Ⅰ」)論創社

競りで購入したダイヤモンドを
揃いの指輪に仕立てた新婚夫婦。
ところが妻は
その指輪をはめて数日後、
指が徐々に腫れ、
指輪が抜けなくなってしまう。
痛みに耐えていた妻は、
ある夜、静かに眠ったかと思うと
そのまま事切れて…。
日本最初の探偵小説作家、黒岩涙香の
海外ミステリの翻案作品です。
わずか10頁の短篇なのですが、
読み進めるときのワクワク感が
何ともいえません。なぜか?
その後の展開を予想しても、
ことごとく外されてしまうからです。
【主要登場人物】
「余」
…おそらくは富豪。フランスの競りで
高額のダイヤモンドを買い入れる。
妻
…「余」の妻。指輪をはめた指が腫れる。
妹
…「余」の妹。
妻の容体の急変を知らせる。
医師
…妻を診察する。
本作品の外れる展開予想①
王家の宝石の呪い!?
これはホラー小説か
ダイヤモンドはただ大きくて
高額というわけではありません。
出所はフランス国王の冠に
はめられていた宝石セット。
そして本作品の書き出しは
「物の祟りほど恐ろしきは莫し」。
もしやこれは王家の宝石の祟り?
これは実はホラー小説?
そういう雰囲気を湛えながら
物語は進行します。
本作品の外れる展開予想②
妹や医師はどう関わる?
もしかしてミステリ
登場人物は4人のみ。
もしミステリであり、
妻の死が殺人事件であるならば、
犯人は妹か医師しかいなくなります。
第一発見者の妹が何らかの
動機をもって妻を殺害したのか?
あるいは以前から指の診察をしていた
医師が毒を盛ったか?
疑惑を呼び起こすシチュエーションが
謎を深めていきます。
本作品の外れる展開予想③
埋葬されたはずの妻が!?
実はオカルトか
そして最後が圧巻です。
埋葬されたはずの妻が窓の外に!
「硝子戸の外に寄り添う人の姿あり。
顔は斜めに月影を帯び
半面は暗く半面は青し、
その物凄さいうばかりなし」。
さらには
「妻の身体は血塗れなり」。
壮絶な情景です。
なぜ埋葬されたはずの妻が?
病死したはずなのになぜ血塗れ?
これは幽霊?
ゴースト?
さてはオカルト小説だったか?
しかし結末はそうした予想を
ことごとく裏切ります。
ぜひ読んで確かめてください。
おそらく黒岩は読み手のミスリードを
誘ったのだと考えられます。
明治23年に新聞連載された本作品、
当時の読者たちは
こうしたワクワク感をもって
毎日の朝を迎えていたのでしょう。
※「黒岩涙香探偵小説選Ⅰ」
収録作品一覧
無惨
涙香集
涙香集序
金剛石の指輪
恐ろしき五分間
婚姻
紳士三人
電気
生命保険
探偵
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(2022.4.22)

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