
フェイクに見せかけて、やはり「女の決闘」!
「女の決闘」(橫溝正史)
(「支那扇の女」)角川文庫
ロビンソン夫妻のパーティには、
緑ヶ丘の住人が招かれていた。
川崎泰子が現れ、次いで
藤本哲也・多美子夫妻が
姿を見せると、
客たちの間に緊張が走った。
泰子は哲也の
前妻だったからである。
まもなく多美子が倒れて
苦しみだし…。
今年に入って復刊相次ぐ角川文庫の
橫溝正史作品。
その一つ、「支那扇の女」に
併録されている短篇です。
金田一耕助を含む緑ヶ丘の住人が
集まった二度に渡るパーティ。
そこで殺人事件が起こるのです。
【事件簿File-047「女の決闘」】
〔依頼人〕
該当なし
※招かれたパーティ席上で
金田一は事件に遭遇
(捜査協力の形)
〔捜査関係者〕
島田警部補…緑ヶ丘署捜査主任。
〔事件関係者〕
ジェームズ・ロビンソン
…学者。緑ヶ丘に住んでいたが、
帰国することになる。
マーガレット・ロビンソン
…ジェームズの妻。
隣に住んでいた泰子と親しい。
河崎泰子
…児童文学作家。受け取ったパーティの
案内状は誰かの偽造だった。
藤本哲也
…流行作家。ジェームズの隣人。
藤本多美子
…哲也の二度目の妻。
富裕な貿易商の娘。
井手清一
…高名な作曲家。多美子の友人。
木戸郁子(木戸のおばあちゃま)
…未亡人。七十前後。
緑ヶ丘の婦人たちのまとめ役。
中井夫人
…世話好きな女性。会社重役夫人。
椙本三郎
…元海軍少佐。
ジャック安永
…映画俳優兼監督。
金田一のアメリカ時代の旧友。
木下…医師。多美子を診察した。
〔事件発生〕
昭和31年(東京・成城)
〔事件の概要〕
①晩夏:ジェームス主催のパーティ
・何者かがマーガレットの名を騙り、
泰子をパーティにおびき寄せる。
・多美子、毒物により重傷、
命は取り留める。
②12月:ジャック安永主催のパーティ
・帰宅途中の藤本哲也、
毒物中毒により死亡。
本作品の味わいどころ①
息詰まるまさに女の決闘
誰かが主宰者の名を騙って
呼び出した泰子。
彼女を捨てた元夫・藤本哲也と
その妻・多美子も同席している。
周囲の人間も緊張しながら
三人の様子を窺っている。
パーティには金田一も招待されている。
となると、
何かが起きる予感は高まります。
当然、起こるのです。
二度に渡るパーティで、
一度目は多美子が毒殺されかけ、
二度目は哲也が死亡するという
事件なのです。
どちらも猛毒ストリキリーネが
使用されています。
そしてどちらの場合も
被害者のそばにいたのは泰子なのです。
となると、
いかにも泰子が自分を捨てた哲也と、
その後釜に座った多美子を殺害した、
まさに「女の決闘」と思われるのですが、
当然そんな単純なものではありません。
でも、すべての謎が解き明かされると、
やはり「女の決闘」であることが
わかるのです。
フェイクに見せかけたタイトルは、
実は真実だった。
この、横溝らしい
緻密な構成で組み立てられた、
壮絶な「女の決闘」こそ、
本作品の第一の
味わいどころとなるのです。
じっくり味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
意外な犯人、意外な動機
では泰子でなければ誰が犯人なのか?
本作品は短篇であるためか、
あるいは町内のごく親しい人間が
集まったという設定ゆえか、
横溝特有の「怪しい人物」が
あまり見当たりません。
せいぜいジャック安永が
胡散臭い人物として
登場しているのですが、
もちろんフェイントです。
金田一も謎を解けなかったのですが、
イギリスに帰国した
ジェームズからの手紙が
真実を解明します。
そこには意外な動機、というよりも
意外な真実が隠されていました。
この、
意外な動機による意外な犯人設定こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなっているのです。
しっかり味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
金田一耕助の町内で殺人事件
本事件は、
金田一耕助の町内で起きたものです。
これまでは金田一が
離れ小島に足を運ぶとそこで事件が起き
(「獄門島」「悪霊島」など)、
ひなびた温泉宿で静養すると
そこで事件が起き
(「悪魔の手毬唄」「人面瘡」「首」など)、
似合わないリゾートビーチに
渋々出掛けるとそこでも事件が起き
(「鏡が浦の殺人」「猟奇の始末書」)、
歌舞伎鑑賞をすれば
そこで事件が起き(「幽霊座」)、
ヌード劇場に出掛けても
やはりそこで事件が起き
(「魔女の暦」「火の十字架」など)、
「金田一の行くところ事件あり」が
定番となっているのですが、
本作品だけは
「金田一の住むところ事件あり」
なのです。
どこにいても事件が追いかけてくる
金田一耕助です(もっとも金田一耕助の
アパートの自室で起こる殺人事件も
あるのですが:「悪魔の降誕祭」)。
人づきあいは苦手そうなのに、
地域住民から信頼されているのは、
金田一から滲み出る人柄が
そうさせていると考えられます。
他の作品では見られない、
金田一の一面を垣間見ることこそ、
本作品の隠れた
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
謎解きは、ジェームスと金田一の
往復書簡で示されるという構成も
素敵です。
渦中にあった泰子にも
救いが感じられる結末も
爽やかさが感じられます。
横溝作品は長篇だけではありません。
すべての短篇作品が、それぞれ
異なった味わいをみせるのです。
ぜひご賞味ください。
(2022.4.29)
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(2025.3.13)
〔関連記事:金田一耕助の事件簿〕





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